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「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(秦 郁彦)
5大決戦を戦術面・戦略面で検証。最後は、原子爆弾vs.風船爆弾という悲劇的滑稽さ。
『なぜ日本は敗れたのか-太平洋戦争六大決戦を検証する(新書y)』 ['01年]/『太平洋戦争六大決戦〈上〉錯誤の戦場 (中公文庫)』『太平洋戦争六大決戦 (下) 過信の結末 (中公文庫)』 秦郁彦 氏
『昭和史の謎を追う』など斬新かつ公正な昭和史観で菊池寛賞なども受賞している著者が、『太平洋戦争六大決戦』('76年/読売新聞社・'98年/中公文庫(上・下))、『実録太平洋戦争』('84年/光風社出版)として以前に刊行された著作の、後半第2部"エピソード編"を一部削って新書化したもので、オリジナルは四半世紀も前に書かれたということになります。
第1部で太平洋戦争における日米戦略を概説し、「ミッドウェー」「ガダルカナル」「インパール」「レイテ」「オキナワ」の決戦をとり上げて、作戦の当否や戦力比較、勝敗の分かれ目となった両軍の判断などを分析していますが、あれっ、副題に「六大決戦」とあるのに5つしかない?(第1部は削っていないはずだが...)
因みに、よく組織学の本として引き合いにされる戸部良一・編著『失敗の本質』('84年/ダイヤモンド社・'91年/中公文庫))は、この5つに「ノモンハン」を加えた6つをケーススタディしています。本書は、『失敗の本質』のように企業経営論に意図的に直結させるような組織論展開はしていませんが、各決戦の戦況経緯を詳説すると共に、日本軍の戦術の誤り、或いはそれ以前の戦略上の問題点を、組織論的な観点も含め考察しており、「戦争オタク本」「軍事オタク本」とは一線を画しているように思えます。
『失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)』
「ミッドウェー海戦」の敗戦は、空母「赤城」が味方機の着艦を待ってから攻撃に移ろうとして逆に敵機の先制攻撃を受けたことが敗因だ(そこに日本人的感情=仲間意識が働いたことが「失敗の本質」である)とよく言われますが(操縦士の人命ではなく、その選抜的能力に着目すれば、感情論の入る余地はないのだが)、その他のミスや読み違いが数多くあり、それら以前にも作戦意図の共有化や偵察機の索敵機能などに根本的問題があったことがわかります(但し、本書の後に書かれた『失敗の本質』も、基本的な敗因考察においては同じ)。
ミッドウェー海戦で回避行動中の空母「飛龍」(本書には「赤城」とあるが誤りであると思われる)[毎日新聞社]
著者は、「ミッドウェー海戦」には日本側の数々の失策があったが、それらが無くてもせいぜい「相討ち」だったのではないかとしていますが、ともかく日本は完敗し、これにより日清・日露戦争以来の日本の「不敗神話」は崩壊するとともに、その後のソロモン群島での消耗戦などもあって、開戦時は日本側が優位であった日米両海軍の力関係は、逆転するわけです。
その後に続く「ガダルカナル」「インパール」などの決戦は悲惨の極みであり、ガダルカナルでは2万人以上、インパールでは、死者数すらわからないが、おそらく同じく2万人以上の戦力を失っているとのこと。著者の、戦術論的に「まだ戦い方があった」「別のやり方があった」というのはよく分かりますが、結局「ミッドウェー海戦」で全てが決していたような気がします。エピソードの最後にある「風船爆弾」の話があり(日本がアメリカ本土を唯一に直接攻撃したもので、9千発強の風船を発し、300発ほどアメリカに到着したが、爆発したのは28発だけ。死者発生は1件6名で、オレゴン州当地に記念碑がある)、「原子爆弾対風船爆弾という、あまりに悲劇的ながらユーモラスな対照のうちに太平洋戦争は終わった」と締め括っているのが印象的でした。