【935】 ○ 長嶺 超輝 『裁判官の爆笑お言葉集 (2007/03 幻冬舎新書) ★★★★ (× 井上 薫 『狂った裁判官 (2007/03 幻冬舎新書) ★☆)

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茶化し気味のタイトルだが、読んでみて「量刑相場」の問題などいろいろ考えさせられた。

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裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書 な 3-1)』['07年3月] 井上薫『狂った裁判官 (幻冬舎新書 い 2-1)』['07年3月]

 裁判官は、建前は「法の声のみを語るべき」とされていますが、法廷ではしばしば「説諭」や「付言」という形でその肉声が聞かれることがあり、本書では、私情を抑えきれず思わずこぼれたその本音などを(勿論、事前にじっくり練られたものもあるが)拾っていて、茶化し気味のタイトルに反して、読んでみて考えさせられるものがありました。

 その中には、心情的には重い刑を言い渡したいのに、「量刑相場」がそれを許さないという板ばさみ状態での判決に伴ったものが結構あって、裁判官がその「説諭」等に、反省の足りない被告人に対する痛烈な批判のメッセージを込めるといったことは、それなりに司法の役割の一端でもあるように思いますが、その良心に従い独立してその職権を行使すべきである裁判官が、自らの内部で量刑の軽さとのバランスをとろうとしているようにもとれるところに、「量刑相場」問題の複雑さがあるように思いました(一方、被告人を更生させるための思いやりのある発言も、本書には多く収録されている)。

裁判官はなぜ誤るのか.jpg そもそも、日本の裁判では、裁判官が法廷以外で被告人と話すことはなく、元判事の秋山賢三・弁護士が著した『裁判官はなぜ誤るのか』('02年/岩波新書)にも、「エリート意識は強いが世間のことはよく知らず、ましてや公判まで直接面談することも無い被告人の犯罪に至る心情等には理解を寄せがたい」こと、「受動的な姿勢と形式マニュアル主義から、検察の調書を鵜呑みにしがち」なことなどが指摘されていましたが、本書を読むと、真っ当な人も多いのだなあと(真っ当であってもらわないと困るが)。

 著者は、司法試験受験を7度失敗したのに懲りて、司法ライターに転じたとのことで、本書が初めての新書らしいですが、その視点に斜に構えた感じは無く、冷静かつ概ね客観的であるように思え、また、緩急の効いた文章も旨いです(これ、要点をかいつまんで纏めるのは結構、訓練が要るのではないか)。

 同時期に幻冬舎新書で刊行された、元判事・井上薫氏の『狂った裁判官』の方は、現在の司法制度の実情を解説するとともに、その問題点を挙げて批判したものですが、本当に著者の言う"ひどい"事態がしばしばあることなのかやや疑問で、著者が再任拒否された恨み辛みが先行しているような感じもし、斜に構えているのはむしろこちらの方かも。
 どちらか1冊と言えば、この『お言葉集』の方がお薦め、と言うより、司法制度を考える上で(興味本位から入っても構わないので)、多くの人に手にして欲しい本です(そのつもりでつけたのであろうタイトルには、内容との違和感を感じるが)。

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