【932】 △ 見田 宗介 『社会学入門―人間と社会の未来』 (2006/04 岩波新書) ★★★

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読み易いが、読み易さと理解のし易さは別。抽象的で、構成上もモザイク的な印象。

社会学入門−人間と社会の未来.jpg 『社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)』 ['08年] 現代社会の理論.jpg 『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)』 ['96年]

 前著『現代社会の理論』('96年/岩波新書)に比べれば読み易かったですが、社会学の入門書としてはどうかなあという感じで、読み易さと理解のし易さはまた別であるというのが、本書を読み終えた感想です。

 確かに前半部分、第1章「鏡の中の現代社会」と第2章「魔のない世界」は、文化人類学的な視点などを示していて(著者の専門は文化社会学)、学問の入り口に立つ人に社会学という学問の幅の広さを理解してもらう上では良いと思いましたが(社会学は"越境せざるを得ない学問"である著者は言う)、体系的に纏まっているわけでもなく、エッセイみたいな部分もあり、第3章の「夢の時代と虚構の時代」において、現代日本の"感覚"の歴史を割合に手際よく纏めているかと思うと、第4章「愛の変容/自我の変容」で短歌評みたいになったりして、「論」としての纏まりを感じたのは第5章の「二千年の黙示録」と、約40ページ9節に分かれる「補章」の部分でしょうか。

 第5章の「二千年の黙示録」で提示しているテーマは、「関係の絶対性」をどう超えるかということであり、これは、黙示録にある"バベルの塔"の崩壊以来、2001年の同時多発テロに象徴されるような、原理主義的な"イズム"の衝突をどう克服するかということだと解釈したのですが、その結論は、「補章」の最後にあるように、この著者特有の「〈至高なもの〉を解き放つこと」的な言い方に収斂されており、これに感動するか、韜晦されたと感じるかによって、本書への評価は分かれると思いました(この著者には、熱狂的な読者が多い。一般読者だけでなく、大澤真幸、宮台真司、小熊英二ら多くの見田ゼミ出身の社会学者がいる)。

 敢えて具体的(でもないが)、解決案的記述を探せば、「補章」の"間奏"にあたるという(「補章」は交響曲構成になっているらしい)第6節で、近代社会学における「ゲゼルシャフト(社会態)からゲマインシャフト(共同態)へ」という社会様態の段階理論を止揚し(人間のこれまでの全ての社会は「ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ」の複層構造にあるが、ゲゼルシャフトは虚構であり、それは微分化されたゲマインシャフトの相互の関係としてのゲゼルシャフトであると)、そこに「意思以前の関係」(要するに自由がきかない関係とういうこと)か「自由な意志による関係」かという軸を入れ、その第1象限にあたる「ゲマインシャフト/自由な意志による関係」を「交響体」(ゲマインシャフトだが自由がきかない「共同体」の発展系)として捉え、そこに活路を見い出しているようです(序章で既にこのことは述べられていた)。

 やはり抽象的? 大学の講義ノートを再整理したものらしいですが、その講義科目が幾つかに渡るうえに、すでに発表済みの論文等も織り交ぜていて、結果的に各章の関係がモザイク的な感じになっているように思いました(著者の信奉者には、それが綺麗な模様に見える?)。モザイクの部分部分はそれなりに、イイこと書いてあるのだが...。

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見田宗介(みた・むねすけ)
2022年4月1日、敗血症のため東京都内の病院で死去。84歳。

1960年東京大を卒業、82年教授に。情報化社会の光と闇を解明した「現代社会の理論」、人間の根源的問題と格闘する社会学のあり方を示した「社会学入門」などの著書で、日本の社会構造を理論的に究明した。幅広い視点に立った独自の考察は「見田社会学」と呼ばれた。

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