【927】 ○ 立木 義浩 『マイ・アメリカ (1980/10 集英社) ★★★★

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'70年代後半のアメリカの文化や社会の荒廃と「格差社会」ぶりをよく捉えている。

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(28.8 x 21.4 x 2.2 cm)『マイ・アメリカ―立木義浩ノンフィクション (1980年)』『マイ・アメリカ (1982年)』 集英社文庫 ['82年]

 写真家・立木義春が'70年代後半にアメリカに渡り、2年間にわたってロサンゼルスやニューヨーク、その他の地方都市で当時のアメリカを象徴する風俗や社会の内側を撮ったもので、一応"写真集"ということになっていますが、ルポないし紀行文的な文章もあり、"写文集"といったところ。

MY AMERICA.jpg 「アメリカの深層部・恥部・細部をくまなく歩きまわり、鮮烈な映像でとらえたホットな報告書」と口上にあるように、今見ればやや意図的な露悪趣味も感じないことはないものの、男性ストリップに熱狂する女性たちや、アラバマのKKK(クー・クラックス・クラン)のメンバーなど、当時のベトナム戦争後のアメリカの文化や社会の荒廃をよく捉えていて、サウスブロンクスの少年ギャングを追った「サウスブロンクスは、この世の地獄だ。」などは、今読んでも衝撃的です。

立木 義浩 『マイ・アメリカ』.jpg 元々、集英社が版元である「日本版PLAYBOY」の企画であり、それ風の表紙に収まっているマリリン・モンローは、実は"そっくりさん"で、今は日本でも比較的知られていることかも知れませんが、アメリカにはタレントのそっくりさんだけを集めたプロダmyAMERICA.jpgクションがあり、チャップリン、ウッディ・アレン、チャールズ・ブロンソン、ロバート・レッドフォードなどの他、キッシンジャーのそっくりさんまでいるという話に、当時は驚きました。でもそう言えば、インパーソネーター(そっくりさん)を主人公にした映画が今年['08年]どこかの映画館でかかっていたのを思い出しました。

 著者は、ロスにあるモンローのそっくりさんの住まいを訪ね、それが侘びしいアパートであることに、ちょっとしんみり。それでもカメラを向けると彼女自身はモンローになり切ってしまうので、おかしいというより悲しい気分になる―。
 この程度のそっくりさんは掃いて捨てるほどいるということか。競争社会、アメリカで生きていくって大変そうだなあと思いました。

 一方で、一年中を乗馬や園遊会で過ごす「富裕層」の野外パーティーも取材していて、この人たちにとっては浪費することだけが人生であり、仕事は一切せず(仕事から遠ざけられている面もあるかも知れないが)、昔のイギリス貴族の真似事みたいなことをして日々を送っているわけです(ある意味、彼らは純粋に「資本家」であるということなのかも)。

 日本でも近年「格差社会」論争が盛んで、アメリカに比べてどうのこうのと言った言い方もありますが、元々アメリカと比べるのがおかしいのでは、という気持ちになります。

 【1980年単行本[集英社]/1982年文庫化[集英社文庫]】

●インパーソネーター(そっくりさん)を主人公にした映画
ミスター・ロンリー」 ('07年/英・仏・米)
ミスター・ロンリー dvd.jpg ミスター・ロンリー 01.jpg ミスター・ロンリー07.jpg

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