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素材(話題)は古いが、"ケータイ"カメラ時代に考えさえられる点も。
『映像のトリック (講談社現代新書)』['86年] 秋葉原通り魔事件 NHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」(2008.6.20)より
『写真のワナ』('94年/情報センター出版局)や『疑惑のアングル』('06年/平凡社)などの著書がある"告発系"(?)フォトジャーナリストである著者が、まだ共同通信社の写真部に在籍していた頃の著書で、'86年2月刊。
報道写真のウソを、太平洋戦争時から直近までの事例で以って説明していて、新書にしては写真が豊富です。但し、戦争中の報道写真なんてウソの報道ばかりであることは想像に難くなく、写真合成のひどさ(いい加減という意味も含めて)は、最近読んだ、小池壮彦氏の『心霊写真』('02年/ 宝島社新書)を髣髴させるものがありました("心霊写真"は世間を騒がせただけだが、本書にある"戦争報道写真"などは当時の日本国民を欺いたわけで、ずっと罪は重いと言えるが)。
アメリカなどの戦勝国も、朝鮮戦争やベトナム戦争を含め、同じようなこと(報道統制・映像による虚偽行為)をしていたことがわかり、そう言えば、スタジオの中でいかにも火星着陸に成功したかのように演出してみせる、ピーター・ハイアムズ原作・脚本・監督、エリオット・グルード主演の「カプリコン・1」というSF映画(と言うより、完全な政治映画)などもあったなあと思い出したりもしました(この映画は米英両国の合作製作で、NASAは当初協力的だったが、試写で内容を知ってから協力を拒否した。アメリカ本国での公開は日本での公開より半年遅かった)。
"Capricorn One" (1977)
"直近"の出来事では、日航機墜落事故('85年8月)で遺族に頭を下げている日航社長の姿勢が、実はカメラマンを意識したものであったとか、そのほか、グリコ・森永事件('84年)でのCGによる捜査写真の問題点などを扱っていますが、この頃が、CG写真やデジタルカメラ(本書では「電子カメラ」)の草創期だったのだなあ、と事件と共に思い出すとともに、今となっては話題(素材)が古すぎて、昔の新聞を読んでいるみたいな感じも。
本書は"トリック"というテーマには限定せず、ロス疑惑事件の三浦和義"疑惑人"逮捕('85年9月)前後の過熱報道など様々なケースを取り上げていますが、多くの報道陣の目の前で殺人が為された豊田商事事件(永野会長刺殺事件)('85年6月-何だか、事件が続いた時期だった)について、現場に居合わせたカメラマンの、夢中でシャッターだけ切り、急に身の危険を感じて逃げるべきかその場に居るべきか、という考えが一瞬頭の中をよぎったものの、後は冷静さを失い、結局自らはどうすることも出来なかったという証言を載せているのが関心を引きました。
豊田商事・永野会長刺殺事件 (本書より) 1985.6.19 毎日新聞(朝刊)
これは、カメラマンだからこそ、撮るべきだったか、止(と)めるべきだったか、結局、後で悩むわけで(悲惨な戦争の報道でカメラマンが被写体に対して、撮影するしない以前の問題として何かしてやれなかったのかとよく非難されるパターンと同じ)、最近は一般の人が常に"ケータイ"というカメラを持っており、駅のホームで落下事故や飛び込みがあると、助けるわけでも人を呼びにいくわけでもなく、一斉に"ケータイ"で写真を撮り始めるという―(その写真を早速友人たちに転送している彼らは、後で思い悩むことがあるのだろうか)。
何だか現代社会の疎外を象徴する殺伐とした「お話」だと思っていたら、秋葉原通り魔事件が今月('08年6月8日)に起き、その際に居合わせた群集の一部が、一斉に"ケータイ"カメラを現場に向けているという光景が見られ、「現実」のこととしておぞましく感じられました。そんな中、ある30代の男性が、倒れた被害者を救助すべく、素手で口に手をこじ入れ気道確保をしたうえで、他の通行人と協力して心臓マッサージや人工呼吸を試み、到着した救急隊に被害者を引き渡したが、この人は写真が趣味で、当日も首からカメラをぶら下げていたにも関わらず、「目の前に倒れている人を救助したい一心」で、事件の写真は1枚も撮らなかった―という記事が読売新聞にあり、多少救われたような気持ちになりました。
「カプリコン・1」●原題:CAPRICORN ONE●制作年:1977年●制作国:アメリカ/イギリス●監督・脚本・原作:ピーター・ハイアムズ●製作:ポール・N・ラザルス3世●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●出演:エリオット・グールド/ジェームズ・ブローリン/ブレンダ・バッカロ/サム・ウォーターストーン/O・J・シンプソン/ハル・ホルブルック/カレン・ブラック/テリー・サバラス●時間:124分●日本公開:1977/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐 (78-12-13) (評価:★★★)●併映「ネットワーク」(シドニー・ルメット)