【925】 △ 井上 一馬 『中学受験、する・しない? (2001/12 ちくま新書) ★★★

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中学受験への問題提起? それとも、受験必勝法? 主題分裂気味な面も。。

中学受験、する・しない?.jpg 『中学受験、する・しない? (ちくま新書)』['01年] 秘伝 中学入試国語読解法.jpg 石原千秋 『秘伝 中学入試国語読解法 (新潮選書)』 ['99年]

ウディ・アレンのすべて.jpg 以前に、受験生の父親が書いた中学受験に関する本で定評のあるものとして、作家・三田誠広氏の『パパは塾長さん』('88年/河出書房新社)、国文学者・石原千秋氏の『秘伝 中学入試国語読解法』('99年/新潮社)、テレビ局社員・高橋秀樹氏の『中学受験で子供と遊ぼう』('00年/日本経済新聞社)を読みましたが、本書はこれらの後に出た本の中では好評のようで、個人的には、ボブ・グリーンやマイク・ロイコのコラム翻訳、或いはブロードウェイ・ミュージカルの入門書やウディ・アレンの評伝などで親近感のある著者の書いたものであるということもあり、また、タイトルの「する・しない?」にも少し惹かれて手にしました。

 著者自身、2人の娘の中学受験を経験したわけですが、前3著ほど、そのことについて詳しく書かれているわけではなく、また、どこの学校を受けて、どこに入ったというような学校名も書かれておらず、「中学受験のあるべき姿」を一般論として論じています。

 本書で著者が強調していることは、偏差値に振り回される時代は終わり、子どもの性格に合った塾や学校選びをせよということであり、例えば、大学受験をしなくてすむ大学附属校などの出身者は、おっとりした性格の人が多いなどというのは、当たっているような気がしました。

 私立の中・高一貫校は、本書が書かれた頃には既に人気の的になっていたわけで、著者は、公立校復権の気運に対し、所得による教育の不公平性を排除するために、有名大学への進学を目指した公立の中・高一貫校を一部に作るのはいい、但し、そうした学校をやみくもに増やして、公立学校の中に再び偏差値によるピラミッドを作ることはやめるべきだと言っています。

 私立の受験日を平日にもってくるべきではない、受験科目数を減らすべきだなどの提言はマトモですが、あとがき的に書かれている程度で、そのほかには言い切れてない部分も少なくなく、全体としてインパクトが弱いような...。
 そもそも、一方で、「現在の日本の中学受験の『勝者』となる方法」を本書のテーマとして挙げていて、「中学入試偏差値一覧」(これ、見易い)なども載せているため、主題分裂気味な面もあり、少なくとも「する・しない?」の「しない」は、最初から除かれているような感じ(私立の小学校受験については、公立ので「いろいろなタイプの人たちと交流することが大事」だというのが著者の意見)。

 麻布中学の国語問題を載せ、その長文の長さと難易度の高さに、「嫌でも大変でも、これが現実」としていますが、読者をびっくりさせているだけのような気もし、石原千秋氏が、中学受験の国語問題を多く取り上げながら、それらに潜む一定の価値観への指向性を指摘した『秘伝 中学入試国語読解法』の方が、"批判"と"実用"の両方を(巧妙に)兼ね添えていると言えます。
 専門分野の違いもあるかと思いますが、だったら、受験英語についての問題点を指摘してみてはどうかなあ(既にやっておられれば、失礼しました)。

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