【924】 ○ 会田 雄次 『日本人の意識構造―風土・歴史・社会』 (1970/11 講談社) ★★★★

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「日本人論」ブーム以前に、斬新な日本人論を展開。

日本人の意識構造m.jpg日本人の意識構造(1970).jpg  日本人の意識構造.jpg日本人の意識構造2.gif  会田雄次(あいだゆうじ).jpg 会田雄次(1916‐1997/享年81)
日本人の意識構造―風土・歴史・社会 (1970年)』 『日本人の意識構造―風土・歴史・社会 (講談社現代新書)』 ['72年]

日本人の意識構造 (講談社現代新書)2.jpg 子どもを危険から守る時、日本人は必ず前に抱きかかえるのは何故か。日本人が危険に対して咄嗟に背を向ける形になるのに対し、アメリカ人は子どもをまず後ろに跳ね除け、危険と対峙する形をとるそうで、本書では、普段は意識されることがないこうした動作の民族的固有性、例えば、西洋鉋(かんな)は押して削るが、日本の鉋は引いて削る(日本刀も引いて斬る)といったことなどから、日本人論を展開しているのがまず興味深かったです。

 著者によれば、日本人は、敵は後ろからやってくると考えており、戦国時代の戦さも、背後から仕掛けるのが主流の戦法だったとのこと(これは近代戦においてはほぼ通用しない)、例えば、組織においても、組織の内側に敵を求めるのが日本人の特質であり(専ら後方の敵ばかり気にしている)、また、ヨーロッパなどでは平和や家庭は「作る」もの、「建設するもの」であるのに対し、日本では、平和や家庭は「守る」ものになり、「平和になる」というように、自己の決断でさえ自然発生的なものとして表すのも、日本人の特徴であるとのこと。

 こうした日本人の意識の柔弱さ、欠点とも思われる部分を小気味良いまでに次々と明らかにしていて、一方で、短期決戦、突貫工事に力を発揮する日本人、壮大な長期目標が無いと意欲が湧かない西洋人、というように、それぞれの長所・短所という捉え方もしていて、読み進むとむしろ、英国人の自己中心主義や権威主義(家柄主義)、米国人男性がいかに妻や家庭に縛られ不自由にしているか、などが述べられていて、特に教育において、英国の名門大学(オックスフォード・ケンブリッジ)と日本の東京大学(帝大)の、そこに属する人の社会的地位の意味合いの違いについては、考えさせられるものがありました(読んでると、だんだん日本っていいなあ、みたいな気分になってくる)。

 個人的には、著者に対し保守派の論客というイメージを持っていましたが、本書でもナショナリズムの復権を訴えてはいるものの、そこに政治性はあまり感じられず、むしろ、ちょっと外国人と接触しただけで「国際人」になった気分になるオメデタイ人たちに対し、日本人と西欧人のいかに異なるかをもっと認識せよと(多分にシニカルに)言っているように思えました。『アーロン収容所』を再読して以降、「西洋人が別の生き物に見えた」という著者独自のトラウマのようなものを感じ、但し、著者の指摘する日本人と西洋人の意識構造の違いというのは、そうしたことを割り引いても、確かにナルホドと思わせるものがあります。

 本書後半は論考集で、結果として本としては若干寄せ集め気味の構成ですが、この中にも、ベネディクトの『菊と刀』における西洋人の「罪の意識」と日本人の「恥の意識」という単純な論理展開に、西洋人にも「監視の意識」はあると反駁している部分などがあり、これらは'65(昭和40)年ぐらい、つまり『日本人とユダヤ人』('70年/山本書店)などによる日本人論ブームが起こる以前に書かれた日本人と西洋人との比較論であることを思うと、その独自性、先見性は再評価されてもよいのではないかと思われます。

 【1972年新書化[講談社現代新書]】

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This page contains a single entry by wada published on 2008年6月15日 23:34.

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