【923】 ◎ 鈴木 大拙 『禅と日本文化 (1940/12 岩波新書) ★★★★☆

「●日本人論・日本文化論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2899】 中根 千枝 『タテ社会の人間関係
「●岩波新書」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(藤田嗣治)

禅の伝道者としての面目躍如。禅の入門書としても日本文化論としても読める。

鈴木 大拙 『禅と日本文化』.JPG禅と日本文化.jpg   禅と日本文化1.bmp    鈴木大拙 没後40年.jpg
禅と日本文化 (岩波新書)』 (1940)/『禅と日本文化 (1948年) (岩波新書〈第75〉)』/『鈴木大拙 (KAWADE道の手帖)』('06年/河出書房新社)

 仏教学者の鈴木大拙(1870‐1966)が、禅とは何か、禅宗が日本人の性格を築きあげる上でいかに重要な役割を果たしたかを外国人に理解してもらうために、禅と日本文化の関連を、美術、武士、剣道、儒教、茶道、俳句の各テーマについて論じたもので、英米で鈴木大拙が行った講演をベースに、北川桃雄(1899‐1969)が翻訳し、1940(昭和15)年に刊行されたものです。

 内容的には、禅の入門書としても読めますが、日本文化にいかに禅というものが染み込んでいるかという日本文化論としても読め、外国人に説明的に話されているのと、一度英語で記されたものを和訳したものであるため、文章の主格・従格がはっきりしていることもあって読み易いと思われます。
 例えば、「禅と美術」の章で、〈わび〉の真意は「貧困」(ポヴァティー)である、などとあり、外国人に限らず、今の一般的日本人にとっても、こういう風に説明してもらった方が、はいり込み易いかも。
 但し、それだけではなく、「禅と茶道」の章では、〈さび〉と〈わび〉は同義であるが、そこには美的指導原理が在り(これを除くとただのビンボーになってしまう)、〈さび〉も〈わび〉も貧乏を美的に楽しむことである、更に、〈さび〉は一般に個々の事物や環境に、〈わび〉は通常、貧乏、不十分を連想させる生活状態に適用される、とあります。

 禅の問答話も多く紹介されていて、これを聞いた外国人は、それらの話の展開が西洋的なロジックと全く逆であるため、一瞬ポカンとしたのではないでしょうか。その辺りを、日本の文化や芸術に具象化されているもので解説する(この時点で、外国人よりは日本人の方が、イメージできるだけ理解し易いのでは)、更に、必要に応じて、先の〈さび〉と〈わび〉の説明のような概念整理をしてみせる(ここで何となく外国人も理解する)、といったことを丁寧に繰り返しているような感じで、禅の伝道者(advocator)としての面目躍如といったところ。

 鈴木大拙の業績の要は、まさにこの点にあったと思われるのですが、外国人を惹きつける魅力を持った彼の話には、20代後半から12年間アメリカで生活して西洋人と日本人の違いを体感してきたこともあり、また、仏教に対する造詣だけでなく、東西の宗教や文化・芸術に対する知識と理解があったことがわかり、この人自身は、禅者であったことは確かですが、併せて、傑出した知識人であったことを窺わせます。
 79歳からも9年間西欧に渡り、仏典の翻訳の傍ら、フロム、トインビー、ハイデガー、ヤスパースら20世紀を代表する知識人に禅や老荘思想を伝授し、大拙の元秘書だった岡村美穂子氏によると、'66年に96歳で亡くなる前日まで、仕事に励んでいたとのこと(死因は腸閉塞)。

禅と日本文化 対訳.jpg 個人的には、最初に本書を読んだ時に、第1章の「禅の予備知識」を入門書として重点的に読みましたが、第2章以下の各文化との関連については、読み込み不足だったと思われ、今回の読書でもその印象は残っており(星半個マイナスは自分の理解度の問題)、また何度か読み返したい本です。

 岩波の旧赤版ですが、復刻されているので入手し易い部類ではないかと思われます。個人的には、汚れナシのものを古本屋で200円で購入、再読しました。'05年には、講談社インターナショナルより対訳版も刊行されています。

対訳 禅と日本文化 - Zen and Japanese Culture』 ['05年/講談社インターナショナル]

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2008年6月15日 23:25.

【922】 ○ 湯浅 誠 『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』 (2008/04 岩波新書) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【924】 ○ 会田 雄次 『日本人の意識構造―風土・歴史・社会』 (1970/11 講談社) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1