【913】 △ 安斎 育郎 『だます心 だまされる心 (2005/06 岩波新書) ★★★

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楽しい講演会を聞いているような印象の本。体系的ではないが、息抜きにはちょうどいい。

だます心 だまされる心.jpg       霊はあるか.jpg       安斎育郎.jpg 安斎 育郎 氏
だます心 だまされる心 (岩波新書)』['05年]『霊はあるか―科学の視点から (ブルーバックス)』['02年]

 「だます」という行動を人間関係や自然界について様々な角度から捉えた本で、著者は工学博士(専門は放射線防護学、因みに、東大在学中からの筋金入りの"反原発"派)であるとともに、「ジャパン・スケプティクス」という、超常現象を批判的・科学的に究明する会の会長で、松田道弘著『超能力のトリック』('85年/講談社現代新書)でも紹介されているユリゲラーのスプーン曲げのトリックなどを公開講座で実演してみせたりもしており、『人はなぜ騙されるのか-非科学を科学する』('96年/朝日新聞社)、『霊はあるか-科学の視点から』('02年/講談社ブルーバックス)などの著作もある人です(特に後者の著作は、日本の仏教宗派の主要なものは教義上は霊は存在しないと考えている点をアンケート調査で明かしていて、「超心理学」とはまた違った観点で興味深い)。

不可能からの脱出.jpg 本書『だます心 だまされる心』では、最初の方で、人間の錯覚などを生かした手品や、それを超能力と称しているもののトリックを、著者自身の実演写真入りで解説し("物質化現象"のトリックを実演したりしている)、また、小説に現れたり、だまし絵に見られたこれまでのトリックを紹介しています。本書にある、コナン・ドイルが"妖精写真"にだまされた話は有名で、コナン・ドイルと一時期親交があった奇術師フーディーニは、インチキ霊媒師のトリックを幾つも暴いたことで知られていますが、ある人への手紙の中でコナン・ドイルのことを非常にだまされやすい人物と評しています(松田道弘著『不可能からの脱出』('85年/王国社))。
不可能からの脱出―超能力を演出したショウマン ハリー・フーディーニ』 ['85年/王国社]

 本書では更にまた、過去の有名な霊媒師や予言者という触れ込みの人の手法を明かしていますが、個人的には、実際にあったという"地震予言者"の話が面白かったです。自分宛のハガキを毎日出すことで、消印のトリックをしていたなんて!(自分に来たハガキならば、後から「2日後に地震があります」とか書いて、地震があった直後に、今度は宛名を消してご近所さんの宛名に書き換え...)。 

 特に、科学者もだまされた(と言うか、誤った方向へのめりこんだ)例として、世界的な物理学者・長岡半太郎が、水銀から金をつくり出す研究に没頭していたという話は興味深く、また、野口英世が為した数々の病原菌の発見は殆ど誤りだったという話は、分子生物学者・福岡伸一氏のベストセラー『生物と無生物のあいだ』('07年/講談社現代新書)の中でも紹介されていました。

賢いハンス.jpg この話の後に、"計算の出来る馬"として世間を騒がせた「賢いハンス」の話がきたかと思うと、旧石器発掘捏造事件(所謂"ゴッド・ハンド事件")の話やナスカの地上絵の話などがきて、英国のミステリー・サークルは2人の老画家がその全てを描いたという話は一応これに繋がりますが、更に、動物の「擬態」の話(科学者らしいが)がきたかと思うと、社会的な問題となった詐欺事件や戦争報道の捏造などがとり上げられていて、読者を飽きさせはしないけれども、体系的ではないという印象。

"計算の出来る馬"「賢いハンス」

 霊視能力などの"超能力"や簡単に出来る"金儲け"を喧宣する人に対する「そんなことできるのなら、どうしてこうしないのか」(例えば、警察に行って未解決事件の捜査協力するとか、他人にわざわざ勧めなくとも、勝手に自分だけが大金持ちになるとか)という問いかけは、単純なことながらも、そうした怪しい(ウマすぎる)話に直面したときに、冷静にその問いかけを自分に出来るかどうかが理性の分かれ目であるという点で核心を突いていると思います。

 ただ、本書全体としては、心理学半分、科学エッセイ半分という感じで、どちらかというと、楽しい講演会を聞いているような印象の本でした。あまり体系的でないということで、個人的評価は星3つとやや辛めですが、息抜きにはちょうどいいかも。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年5月31日 23:48.

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