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アンデスに夢を馳せ、山脈の隅々に潜むインカの囁きを聴くには充分な1冊。
『カラー版 インカを歩く (岩波新書)』['01年]高野 潤 氏(写真家/略歴下記)
アンデスの雄大な自然と伝統を30年にもわたり撮り続けてきた写真家による写文集。
第1章で、世界遺産である「天空の都市」マチュピチュを紹介しているのは一般的であるとして、その後インカ道を奥深く分け入り、チョケキラウという「パノラマ都市」をフィーチャーしていますが、ここも凄く神秘的で、要するにマチュピチュみたいなのが山奥にまだまだあったということなのかと、インカ文明の懐の深さに驚かされます。
そして更に幾多の山や谷を抜け、インカ族がスペイン人に最後の抵抗を試みた際に籠もったとされるビルカバンバ地方へ。
ここは、本当にジャングルの"奥地"という感じで、そこに至るまでに、また幾つかの大神殿があるのですが、これらを見ていると、インカ文明が「石の文明」であったことがよくわかります。
続いて、幅広い年代の遺跡が眠る北ペルー(ここの「空中墳墓」もかなり凄い)を紹介し、更に、ペルー南部のインカ帝国の首都があったクスコ周辺や、もっとアンデスを下った地域まで、ポイントを押えながらも、広い地域をカバーしています。
文章がしっかりしているのもさすがベテランという感じで、文献の引用が多いことを著者は予め断っていますが、非常に信頼できる記述・解説及び歴史考察ぶりとなっています。
写真の方も、写真家らしい写真というか、トウモロコシが地に溢れる農園や海抜4千メートルにあるアルパカの放牧地、クスコから星空に望む霊山アウサンガテ峰など、そのままカレンダー写真にしたいような美しさです。
一応、こうした写真のうち主要なものは見開きになっていますが、他にも遺跡などの写真が数多く収められていて、新書1冊にちょっと詰め込みきれなかった感じもあり、もったいないというか、気の毒な感じも。
でも、著者が読者に願うように、「アンデスに夢を馳せ、山脈の隅々に潜むインカの囁きを聴く」には充分な1冊です。
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高野 潤 (たかの じゅん)
1947年新潟県生まれ。写真家。1973年から毎年ペル―、ボリビア、アルゼンチン、エクアドルなど主に南米太平洋側諸国のアンデスやアマゾン源流地域を歩き続ける。
南米に関する著書や写真集として、「神々のアンデス=世界の聖域18」講談社、「アンデスの貌」(教育社)、「アンデス大地」(山と渓谷社)同書はフランス、スイス、イタリアにて各国語出版される、「インカ」「どこまでも広く」「マドレの森」(以上三冊は情報センター出版局)、「アンデス=風と霧の聖蹟」(集英社)、「アンデス家族」(理論社)、「風のアンデスへ」(学習研究社)、「アンデスの抱擁」、「アマゾン源流生活」(以上二冊は平凡社)、「アンデス 食の旅」(平凡社新書)、「インカを歩く」(岩波新書)、「インカの野生蘭」(新潮社)。