【896】 ○ 柘植 雅義 『学習障害(LD)―理解とサポートのために』 (2002/06 中公新書) ★★★★

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日米のサポートに対する根本的な取り組み姿勢、発想の違いを痛感。

学習障害(LD)―理解とサポートのために.jpg 『学習障害(LD)―理解とサポートのために (中公新書)』['02年] アメリカ障害児教育の魅力―親が見て肌で感じた.jpg 佐藤恵利子 『アメリカ障害児教育の魅力―親が見て肌で感じた』 ['98年/学苑社]

学習障害.jpg 学習障害の子供に対する教育面でのサポートのあり方について書かれた本で、著者は障害児教育の専門家で、公立学校での教職経験もあり、またUCLAで教鞭をとったこともある人で、とりわけアメリカで行われている障害児教育の様々な取り組みが本書では紹介されています。

 以前に、『アメリカ障害児教育の魅力-親が見て肌で感じた』('98年/学苑社)という、自閉症の我が子を連れてアメリカに行き、ウィスコンシン州の地元の特殊学級で学ばせた佐藤恵利子さんという人の体験記を読み、日米の障害児教育の差に愕然としましたが、たまたま行ったところがそのような手厚いケアをする学校だったのではという思いもあったものの、本書を読むと、根本的にアメリカと日本では、障害児教育への取り組み方が違うように思えました。

 日本では、まず児童を学習障害の有る無しで区分し、障害のある子に特殊教育を施すという考え方ですが(結果として、「普通学級」に入れることが目的化しがちである)、アメリカでは、教科や学習内容ごとの得手不得手によって区分し、その子の不得手な教科について特殊教育を行うという考え方であり、学校の中にそうした「リソースルーム」という特殊学級があって、ある教科についての特別な教育的ニーズのある子は、その時間帯だけ、そこで授業を受ける―というのが、一般的なシステムのようです。

 一見、日本の「通級」システムと似ていますが、言語障害、情緒障害などのカテゴリー別の設置ではなく、あくまでもその科目を学習するのに困難を感じている子が利用できるものであり、校内に設置されている比率も日本とは全然違うし、そこで教えているのは障害児教育の資格を持った複数の教師であり、「リソースルーム」を巡回する教師も複数配置されていて、外部の専門家と連携してサポートを受けるようなシステムもあるということです。

 日本でも学習障害児に対するサポート体制は徐々に整いつつあるかと思われますが、根本的に、画一的教育というのが伝統的な日本の教育スタイルであっただけに、本書を読むと、その辺から発想の転換が求められるような気がし、但し、また、こうしたことを実現するには、行政レベルでの人的資源の投下が必要であるように思いました。

 学習障害の入門書としても読めなくはありませんが、サバン症候群などについてはそれほどの頻度で見られるものでもなく、むしろ、そうしたある分野について特殊な能力に恵まれている「ギフテッド」と呼ばれる子供たちを、どう社会に活かすかということをアメリカという国は考えていて、そのことが、子供たち個々のニーズに沿った教育をするという意味で、「リソースルーム」と同じ発想にある点に注目すべきでしょう。

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