【892】 ◎ 李御寧(イー・オリョン) 『「縮み」志向の日本人 (1982/01 学生社) 《(2007/04 講談社学術文庫)》 ★★★★☆

「●日本人論・日本文化論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【244】 多田 道太郎 『身辺の日本文化
「●講談社学術文庫」の インデックッスへ

日本人に対する「縮み」志向という捉え方は、その役割を終えていない(四方田犬彦)。

「縮み」志向の日本人 (1982年).jpg 「縮み」志向の日本人.bmp    「縮み」志向の日本人2.jpg 「縮み」志向の日本人3.jpg  李御寧(イー・オリョン).bmp 李御寧 氏
学生社['82年]/学生社['84年改版版]/講談社文庫 ['84年]/講談社学術文庫 ['07年]

 日韓両国の文化に造詣の深い李御寧(イー・オリョン)氏による、韓国文化との比較を念頭においた日本文化論。

 日本文化の根底にはものごとを縮小する原理が横たわっていることを、一寸法師の説話、万葉集、扇、神棚、石庭、俳句などの文化・伝統面だけでなく、電卓、LSI技術など、日本が得手とする技術開発までも引き徹底検証してみせていて、盆栽、生け花、床の間からパチンコ、ウォークマンまで、こう次々と指摘されると、日本人が「小さいもの」への志向・嗜好・思考傾向を持っていることを認めざるを得ず、何だか初めて自分たちの民族的心性を知らされたような思いで、むしろ痛快でした。

 著者が日本の縮小志向の代表例として挙げている者に俳句がありますが、 韓国にも短詩型文学はあるものの、17文字で完結する俳句に比べ3倍ほどの長さがあり、やはり俳句は世界で最も短い文芸型なのだ―、こうしたことからも、日本には"極端な"「縮み」志向があると著者は言い、その「縮み」志向を更に、入籠型(込める)、扇型(折り畳む)、姉さま人形型(削り取る)、折詰弁当型(詰める)、能面型(構える)、紋章型(凝らせる)の6つの類型に分けて解説しています。
 例えば「削り取る」は、漢字から部首だけを取り出してひらがなを作ったことなどもそれに該当し、「構える」は能における動作の簡略化がもたらす演劇的効果などに、「凝らせる」は、昔で言えば家紋や屋号、今で言えば名刺にそれが現れていると―。なるほど、なるほど、という感じ。

 著者は更に、雪月花を愛でる慣習などを引きながら、日本人は自然と全面的に対峙するのではなくて、その美の一部を切り取って引き寄せることが重視してきたのであり、日本の「縮みの歴史」は「ハサミの歴史」でもあったのではないかと述べています。

「かわいい」論.jpg この本を久しぶりに読んだのは、四方田犬彦氏が『「かわいい」論』('05年/ちくま新書)の中で本書をとり上げ、彼自身は文化資本主義的な考え方に与するものではなく(本書の李氏の論調は、日本人は単一民族であり一枚岩であることが前提となっている)、また、盆栽が日本よりもヴェトナム・中国の方が盛んであるように、「小さいもの」への憧憬は日本独自のものとは言えないとしながらも、韓国人と日本人のものの考え方の違いを理解するうえで、本書が大いに参考になったとしていることで思い出したためであり、四方田氏は、日韓の文化交流で両国の文化の違いが曖昧になったかのように見える現代でも、日本人に対する「縮み」志向という捉え方は、その役割を終えていないとしています。
 但し、四方田氏が自著で日本人の「小さいもの」志向の1つとして取り上げている「プリクラ」などは、韓国に上陸するや、より多様な発展を遂げたという現象も片やあるわけで、四方田氏は李御寧先生の顰め面が浮かぶと述べていました。

 【1984年文庫化[講談社文庫]/2007年再文庫化[講談社学術文庫]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2008年5月 5日 23:33.

【891】 ◎ 岡田 尊司 『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』 (2004/06 PHP新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【893】 ○ 四方田 犬彦 『「かわいい」論』 (2006/01 ちくま新書) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1