【888】 ○ 細江 英公 『おかあさんのばか―細江英公人間写真集』 (2004/07 岩波書店) ★★★★ (○ 水川 淳三 「おかあさんのばか」 (1964/06 松竹) ★★★★/○ 加藤 浩美 『たったひとつのたからもの』 (2003/11 文藝春秋) ★★★★)

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母を亡くした心の穴とその埋まり具合、父子の絆を浮き立たせる計算された構成。40年ぶりに刊行の『おかあさんのばか』。
おかあさんのばか.jpgおかあさんのばか1 - コピー.jpgおかあさんのばか1 - コピー (2).jpg  たったひとつのたからもの1.jpg
おかあさんのばか―細江英公人間写真集』(24.2 x 18.8 x 1.4 cm) 加藤 浩美『たったひとつのたからもの

薔薇刑.jpg 三島由紀夫を被写体にした『薔薇刑』('63年)など、独特の感性で撮り下ろす前衛的な作品で知られる現代写真家・細江英公(えいこう)が、ある日突然母親を亡くした小学6年生の女の子と残された家族を続けた写真集で、写真もいいけれども、古田幸(みゆき)というその子の詩が多く挿入されており、これも胸を打ちます。
薔薇刑―細江英公写真集』('63年)

おかあさんのばかpos.jpgおかあさんのばか55.jpg 雑誌に連載され、水川淳三監督、乙羽信子主演による映画「おかあさんのばか」('64年/松竹)にもなり(個人的には小学校の課外授業で観たのだが、DVD化されておらずその後観る機会がないため、評価はやや曖昧)、彼女の詩をもとにした「おかあさんのばか」という合唱曲まで出来ましたが、写真集としては、'65年に英語版("Why, Mother, Why?")で海外で刊行されました。映画では、彼女の母親が水泳大会おかあさんのばか 初版.pngで泳ぎ切ったあと脳出血で倒れて亡くなる前の、成長期の娘と母親のふれあいが描かれているのに対し、40年を経て刊行されたこの写真集は、母親の死後1ヵ月、家族にぽっかり「大きな穴」があいたところから始まります。

細江英公 写真集「 Why,Mother,Why 」1965年 初版 カバー

 『薔薇刑』の写真家がどうしてこんなセンチなテーマをと思わないでもありませんが、細江英公はデビュー当時から、前衛写真とは別にヒューマンな作品を取り続けていて、また最近は、『死の灰』('07年)など社会性の高い作品もあります。

 但し、ジャンルを問わず共通して言えるのは、その計算された構成で、この写真集は、1枚1枚の写真を見ただけで家族に空いた「大きな穴」が感じられ、それが少しずつ埋まっていくのを優しく見守りながらも、その"埋まり具合"と"どうしても埋まらない部分"を測りながら撮っている感じがしました。

「おじかあさんのバカ」図2.jpg 幸さんの詩も、最初は亡き母へ怒りにも似た想い、そして生活をしなければという現実感、さらに父親や世間への眼差しと、少しずつ変化していますが、個人的には、教師をしている父親(所々で短い本人コメントが入っている)の娘へのこころ遣いがすごく感じられ、それは写真そのもからのものでもありました。写真家が娘を撮っているのに、それが時として父親の眼になっていて、今は故人となった父の娘への想いが伝わってくるのを感じました(一番感じているのは、今は結婚して子供もいるという幸さんだろう)。
  
「たったひとつのたからもの」.jpg「たったひとつのたからもの」.jpgたったひとつのたからもの.jpg 重度ダウン症の息子を母親が撮った『たったひとつのたからもの』('03年)という写真集で、最後にある父親が息子を抱きしめている海を背景にした写真は感動的でしたが、あの写真集も、最後の写真に限らず、母親が写真を撮っていることで、かえって父親の息子への想いが浮き彫りにされているような気がしました。

 あの写真集の写真を撮った加藤浩美さんという人も、ある意味、写真家であったように思います。写真作品が明治生命(現在の明治安田生命)のコマーシャルに採用されたのが出版の契機となり、'04年には松田聖子、船越栄一郎主演でドラマ化(単発)されました(ドラマ平均視聴率 30.1%)。
加藤 浩美『たったひとつのたからもの』['03年]
ドラマ「たったひとつのたからもの」(2004年・日本テレビ)松田聖子・船越英一郎主演
たったひとつのたからもの ドラマ.jpg

おかあさんのばか(水川淳三監督1964年).jpgおかあさんのばか 映画.jpg「おかあさんのばか」●制作年:1964年●監督:水川淳三●製作:樋口清●脚本:水川淳三/南豊太郎●撮影:堂脇博●音楽:真鍋理一郎●時間:87分●出演:下絛正巳/乙羽信子/深堀義一/加納『おかあさんのばか』spポスタ-.jpg美栄子/高野真二/加代キミ子/織賀邦江/榊ひろみ/長門勇/中村雅子/城戸卓/藤本三重子/朝海日出男/秩父晴子/中新井俊介/林家珍平●公開:1964/06●配給:松竹(評価:★★★☆)

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