【887】 ○ 木村 伊兵衛 『定本木村伊兵衛 (2002/02 朝日新聞社) ★★★★

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木村伊兵衛のエッセンス。昭和30年前後の内外の写真がいい。

定本木村伊兵衛(hako).jpg定本木村伊兵衛.jpg    木村伊兵衛.jpg  木村伊兵衛(1901‐1974)
(28.6 x 23 x 3.6 cm)『定本木村伊兵衛』['02年]

 木村伊兵衛の代表的写真を集めたもので、大判スペースに1ページ1作品(或いは見開きで1作品)という配置で、つまり横長サイズの写真だと基本的には下部分が空白スペースになるという贅沢な配置。
 田村武能氏ら編集にあたった写真家の、木村の作品を見る人に1枚1枚をじっくり味わってもらいたいという思いが伝わってきます。

 収められている写真の殆どはモノクロですが、個人的には、彼が'54(昭和29)年から'55(昭和30)年にかけてパリで撮ったスナップ(カラーとモノクロがある)などが好きで、昭和27年からスタートした「秋田」シリーズもいいし、昭和30年代の東京の下町を撮ったものも懐かしさのようなものが感じられていい(この人は東京・日暮里の出身)。

「西片町附近」 東京・本郷森川町 1953年
「西片町附近」 東京・本郷森川町 1953年.jpg さらにそれらを、同じ時期に、都心部の街中を撮ったものと比べると、逆にこちらの方が時代の流れを感じ(高層ビルの陰に隠れたり土台になったりして、今は見えなくなっているスポットもある)、東北地方や下町の写真は、むしろ時間の流れが緩やかであるように感じられた面もありました(さすがに、戦前の下町のスナップなどは、古色蒼然としているが)。

 ポートレートも彼の魅力の分野で、文人などを撮ったものも収められていて(写真嫌いだった泉鏡花が、緊張のあまりガチガチになって写っている。さすがの木村も、彼の緊張だけは解きほぐせなかった)、職人を撮ったシリーズ(これ、意外といいなあ)、有名な「マダムM」の写真(背表紙に使用)などもあります。
  「定本木村伊兵衛」より    つげ義春 「ねじ式」より
「定本木村伊兵衛」より.jpg「ねじ式」より.jpg 昭和40年前後に各地で撮った地方の土着の人の写真の中には、漫画家つげ義春が自作(「ねじ式」)に用いているものもあります。

 更には、戦前の沖縄や旧満州の写真など珍しいもののあり、もっと見たいと思うのですが、300ページ丸々写真に費やしているとはいえ、これだけ活動分野が多岐に渡ると、どうしてもエッセンス的なものにならざるを得ない―、まあ、それはもう仕方が無いことかも知れず、例えば秋田は秋田で、パリはパリで、それぞれをフィーチャーした作品集が刊行されているわけで...。

「母と子」 秋田・大曲 1959年.jpg「母と子」 秋田・大曲 1959年

 
 

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