【878】 ○ 岡田 尊司 『人格障害の時代 (2004/06 平凡社新書) ★★★☆ (△ 岡田 尊司 『自己愛型社会―ナルシスの時代の終焉』 (2005/05 平凡社新書) ★★☆)

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『人格障害の時代』の前半は「人格障害」の入門書として読みやすい。後半は要注意?

人格障害の時代.jpg          自己愛型社会.jpg        岡田 尊司.jpg 岡田 尊司 氏 (略歴下記) 
人格障害の時代 (平凡社新書)』['04年]『自己愛型社会―ナルシスの時代の終焉 (平凡社新書)』['05年]

 本書の前半部分は、「人格障害」の入門書として読み易いものでした。
 DSM‐Ⅳ(米国精神医学会の診断基準)に定義される10タイプの人格障害について、いきなりそれらを個々述べるのではなく、「自己愛」や「傷つきやさ」、「両極端な思考」など、それらに共通する特徴を最初に纏めています。

 また「妄想・分裂」もその特徴であるとしていて、米国の精神医学者カーンバーグが、こうした「妄想・分裂」を特徴とする人格障害を、神経症レベルと精神病レベルの境界段階にある「境界性人格構造」として理論化したのですが、この考えに従えば、人格障害の多くがこの境界レベルにあると言えると(但し、狭義の"境界性"は、現在は、人格障害の1つのタイプとして位置づけられている)。

ウィトゲンシュタイン2.jpg 引き続き、3群10タイプの人格障害を、妄想性、統合失調型(スキゾタイパル)、統合失調質(シゾイド)、自己愛性、演技性、境界性、反社会性、回避性、依存性、強迫性の順に、それぞれ典型的な臨床例を挙げて解説していますが、症例とは別に、ヴィトゲンシュタイン(シゾイド)、ワーグナー(自己愛性)、マドンナ(演技性)、ゲイリー・ギルモア死刑囚(反社会性)といった有名人に見られる人格障害の傾向を解説に織り込んでいたりして、興味深く読めます(但し、ヴィトゲンシュタインは、近しかった人による評伝を読んだ限りでは、個人的な印象は少し異なるのだが)。
ヴィトゲンシュタイン

MADONNA.gif 特にマドンナの"演技性人格障害"に関しては、「診断概念より、マドンナの方が、ずっと先をいっている」としています(『マドンナの真実』という本をもとにしているのだが)。
 彼女は厳格で保守的な家庭に生まれましたが、幼い頃に母が他界し、その頃から父親に対する執着が強まり父親を独占しようとしていたそうで、それが、彼女が9歳の時に父親が家政婦に来ていた女性と再婚したために、堅物だと思っていた父に裏切られたという思いから、性的放縦や非行に走るようになったとのこと。それでも学校の成績は良かったが(彼女のIQは140超だそうな)、失われた親の愛を性的誘惑によって取り戻したいという願望が彼女をスターの道に導き、スターになってからもあらゆる男性に対する誘惑行為を果てしなく繰り返すが満たされない―ということらしく、このタイプは、映像メディアの世界に多いそうです。
マドンナ

 著者は、「人格障害の角度から社会を眺めることは、現代社会のまったく新しい理解を提供すると思っている」(11p)とのことで、本書の後半は、うつ病や依存症などと人格障害との相関を述べていて、まだこの辺りはいいのですが、非行、引きこもり、児童虐待、幼児性愛などとの関連を述べつつ、これらの増加傾向が社会の変化と無関係ではないことを強調するあまり、恣意的な分析も入った哲学的・主観的な社会論になっているきらいも大いにあります。
 このことは、『人格障害の時代』という本書のタイトルからも充分に予想できたことですが、本書の後半は、自分なりの批評眼をもって読む必要があるかも。

 本書の翌年に刊行された『自己愛型社会-ナルシスの時代の終焉』('05年/平凡社新書)では、古代ローマ、オランダ、アメリカの各社会を自己愛の肥大した「自己愛型」社会として捉えていますが、個人の症候である「自己愛型人格障害」で使われる"自己愛型"という意味を、そのまま国家社会に当て嵌めて論じているのは、ややオーバーゼネラリゼーションであるような気がし、こうしたやや強引な点も、この著者にはあるのではないでしょうか。

 歴史蘊蓄を披瀝している部分は"勉強"になりましたが、歴史コンプッレックスのある人が読むとそのまま書かれていることの全てを真に受けてしまうのではないかと、老婆心ながら思った次第。
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岡田 尊司 (おかだ たかし)
 1960年香川県生まれ。精神科医。医学博士。東京大学哲学科中退、京都大学医学部卒業。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務。著書に『人格障害の時代』(平凡社新書)『パーソナリティ障害』(PHP新書)。心のエクササイズのため、小笠原慧のペンネームで小説を執筆。『DZ』『手のひらの蝶』(ともに角川書店)『サバイバー・ミッション』(文藝春秋)などの作品がある。

《読書MEMO》
●人格障害の共通項(32p)
 1.自分への強い執着(自己愛)/2.傷つきやさ・過剰反応/3.両極端な思考
●人格障害のタイプとケース
妄想性:信じられない病(ケース:夫になったストーカー)
統合失調型(スキゾタイパル):常識を超えた直感人(ケース:不思議な偶然に悩む女性)
統合失調質(シゾイド):無欲で孤独な人生(ケース:聖人君子)
自己愛性:賞賛以外はいらない(ケース:パニック発作に悩むワンマン経営者)
演技性:天性の誘惑者にして嘘つき(ケース:嘘で塗り固めた虚栄人生)
境界性:今その瞬間を生きる人(ケース:愛を貪る少女)
反社会性:冷酷なプレディター(ケース:反逆した教師の息子)
回避性:傷つきを恐れる消極派(ケース:冷たい女の正体)
依存性:他人任せの優柔不断タイプ(ケース:ローン地獄の女性)
強迫性:生真面目すぎる頑張り屋(ケース:女王蜂に見捨てられた働き蜂)

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This page contains a single entry by wada published on 2008年4月18日 23:05.

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