「●日本語」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1237】 宮腰 賢 『故事ことわざ辞典』
「●中公新書」の インデックッスへ
普段何気なく使っている漢字にこんな意味が込められていたのかとビックリ。
白川 静(1910‐2006/享年96)
『漢字百話 (中公新書 (500))』['78年]『漢字百話 (中公文庫BIBLIO)』['02年]
漢字の成り立ちについて10章×10話に纏めたもので、「百話」と言うより「百講」に近いですが、1話ごとにさらに幾つもの漢字の起源が紹介されていて、その数は膨大です(索引が欲しかった気もする)。しかし、単なる項目主義ではなく、漢字の成り立ちが「記号」「象徴」「宗教」「霊」「字形」「字音・字義」などといった観点から体系的に説明されているため、漢字学に学術的に迫りたい人をも満足させるものとなっています。
一方で、雑学的関心でただただ"日めくりカレンダー"的に読んでも楽しい本で(自分はどちらかと言うとこの読み方)、末尾では漢字教育のあり方や漢字の将来についても論じていますが、個人的には、漢字の起源を呪術や宗教、霊との関連で説明した部分が興味深く、普段何気なく使っている漢字にこんな意味が込められていたのかとビックリさせられました。
漢字のもとにあった金文や甲骨文字などの象形文字を、単なる図形でなく、シンボルとして捉えているのが白川漢字学の特徴と言えるかも―。
「字」は家の中にいる子を表すが、この家は廟屋であり、氏族の子が祖霊に謁見し、生育の可否について承認を受ける儀礼を意味し、その時に幼名がつけられるので、字はアザナであるとのこと。
「告」は、牛が人に何事か訴えかけるために口をすり寄せている形だとされているが、この字の上部は木の枝(榊)を表し、「口」はそれに繋げられた祝詞を入れる器を表すことから、神に告げ訴えることであるとのこと。
かつて見る行為は呪術的なものであり、呪力を強めるために目の上を彩ったところから「眉」の字があり、呪術をなす巫女は「媚」と呼ばれ、戦さで敵方に勝つと、呪能を封じるため敵方の巫女は戈(ホコ)で殺され、それが軽蔑の「蔑」という字(上部は眉を表す)、「道」は異族の首を携えて往くことを意味するとのこと。
「新」は斤(オノ)で切った木に辛(ハリ)が打ち込まれたもので、これを見ている形が「親」だが、この木は位牌を作るための神木で、これを見ているのは親を失ってこれを祀る子であるはずとのこと(この辺りの解釈が、いかにもこの人らしい)。
こうした話が、ぎっちり詰まった本。最近では、『白川静さんに学ぶ漢字は楽しい』、『白川静さんに学ぶ漢字は怖い』('06年・'07年/共同通信社))といった本なども出版されていて、没後まだまだ続く「白川漢字学」ブームといったところですが、それらの本のソースも、大体この本に収められています。
【2002年文庫化[中公文庫BIBLIO]】