【872】 ○ アル・ゴア (枝廣淳子:訳)『不都合な真実 (2007/01 ランダムハウス講談社) ★★★★

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○経営思想家トップ50 ランクイン(アル・ゴア)

"プレゼン"上手。危機が今一つ実感できない人には(誇張表現に留意しながらも)「見て」欲しい本。
不都合な真実.jpg   アル・ゴア.jpg Al Gore
不都合な真実』['07年] 『不都合な真実 (実業之日本社文庫)』['17年]『不都合な真実2』['17年]

 地球温暖化問題を提起した同名映画"An Inconvenient Truth"('06年)で紹介された映像やデータをもとに出版された本で、衛星写真を含む多くのカラー写真と斬新な切り口やレイアウトの図説は、この問題の深刻さをわかり易く短時間で見る者に伝えるものとなっています(本を読むというより、プレゼンテーション・スライドを見ているような感じ)。

パイプライン.jpg 例えばこの問題で、湖水面積が激減したチャド湖のことなどはよく引き合いにされますが、本書では、衛星写真でのチャド湖の10年刻みの変化を見せるなど、「対比」の手法を効果的に用いていて、"プレゼン上手"という印象を受けました。
 ロシアなどは、永久凍土が溶けて豊富な地下資源が入手しやすくなると喜んでいる人間が一部にいる、といった話を聞いたことがありますが、永久凍土が溶けて建物が崩れたり道路がぬかるみ化している写真を見ると、温暖化問題で得する国は(少なくとも国レベルでは)どこも無いように思えます(アラスカなどではパイプラインを支える支柱の陥没し、パイプに破損被害が生じているらしいが、ロシアも同じ状況だろう)。

An inconvenience truth.jpg 国内政治的な意図を含んだ本であり、人為的な気候変動のリスクに対する評価を行っている政府間機関(ICCP)の見解を容れながらも、映画同様、元大統領候補のゴア氏が前面に登場し、京都議定書を批准しないブッシュ政権を批判しています。

 最終的には政策提言にまで持っていくことが望ましく、その意図を否定はしませんが、映画でもなされた「グリーンランドの氷床が近いうちに全て溶け、海面位が7m上昇する」などといった記述は、映画の段階で既に英国高等法院が「科学的な常識から逸脱している」と指摘していて、ICCPの見解を超えた誇張表現が、映画にも本書にも少なからずある模様(英国高等法院は映画の「9つの誤謬」を指摘している)、本書が米国中心で書かれていることと併せて気になる点ではあります。

 ただ、個人的には、「見せ方」の旨さに感服させられた本でもあり、ビジュアル化するとややこしい話もこんなにすっと解るものかと感じ入った次第。
 そこが本書の危うい点でもあるかも知れませんが、英高等法院が注意を促したような部分はあるにしても、地球温暖化の危機が今一つぴんと来ない人には是非「見て」欲しい本です。

【2017年文庫化[実業之日本社文庫]】

《読書MEMO》
●英高等法院が注意を促した映画「不都合な真実」の9つの誤謬
(1) 西南極とグリーンランドの氷床が融解することにより、"近い将来"海水準が最大20フィート上昇する。
 《英高等法院判決》 これは明らかに人騒がせである。グリーンランド氷床が融解すれば、これに相当する量の水が放出されるが、それは1000年以上先のことである。
(2) 南太平洋にある標高の低いさんご島は、人為的な温暖化によって浸水しつつある。
 《英高等法院判決》 その証拠はない。
(3) 地球温暖化が海洋コンベアを停止させる。
 《英高等法院判決》 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、混合循環として知られるこの海洋コンベアは、鈍化することはあっても、将来停止することは可能性はかなり低い。
(4) 過去65万年間の二酸化炭素(濃度)の上昇と気温上昇の2つが正確に一致している。
 《英高等法院判決》 この関係性については、確かにおよその科学的合意が得られているが確立されたものではない。
(5) キリマンジャロ山の雪が消失していることには、地球温暖化が明確に関連している。
 《英高等法院判決》 キリマンジャロ山の雪の減少が主として人為的な気候変動に起因するとは確立されていない。
(6) チャド湖が乾上ったという現象は、地球温暖化が環境を破壊する一番の証拠。
 《英高等法院判決》 この現象が地球温暖化に起因すると確立するには不十分。それ以外の要因、人口増加、局地的な気候の多様性なども考慮すべき。
(7) 多発するハリケーンは地球温暖化が原因である。
 《英高等法院判決》 そう示すには証拠が不十分である
(8) 氷を探して泳いだためにホッキョクグマが溺死した。
 《英高等法院判決》 学術研究では「嵐」のために溺れ死んだ4匹のホッキョクグマが最近発見されたことのみが知られている。
(9) 世界中のサンゴ礁が地球温暖化やほかの要因によって白化しつつある。
 《英高等法院判決》 IPCCのレポートでは、サンゴ礁は適応できる可能性もある。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年3月22日 23:12.

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