【867】 ○ 原 武史 『昭和天皇 (2008/01 岩波新書) ★★★★

「●日本史」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1885】 星 亮一 『八重と会津落城
「●岩波新書」の インデックッスへ

太平洋戦争降伏を決意したのは、「国民」のためではなく「三種の神器」を守るため !?

昭和天皇.jpg 『昭和天皇 (岩波新書 新赤版 1111)』['08年] 原 武史.jpg 原 武史 氏(政治学者)

 2008(平成20)年・第11回「司馬遼太郎賞」受賞作。

 本書によれば、天皇の地方視察や外国訪問などの政治的活動は一般国民に可視の(お濠の外側の)ものであリ、御用邸を訪れたり園遊会を催したりすることは政治的活動ではないが、これもお濠の外側のものであると。
昭和天皇の新嘗祭.jpg 一方、不可視の(お濠の内側での)活動は、戦前は「統治権の総攬者」として上奏に対し下問するという政治活動があったが、今は象徴天皇なのでそれは無い。そうすると残るのは、お濠の中での非政治的活動で、宮中祭祀とか生物学研究がそれに当たるが、本書では、その、国民の目から見えにくい宮中祭祀に注目し(天皇が勤労感謝の日に新嘗祭を行っているのを今の若い人の中でで知っている人は少ないのではないか)、昭和天皇の宮中祭祀へのこだわりを通して、天皇は何に対して熱心に祈ったのかを考察しています。
昭和天皇による「新嘗祭」

 もともと昭和天皇は宮中祭祀に熱心ではなかったようですが、そのことで信仰に口うるさかった貞明皇太后との間で軋轢を生じ、逆に新嘗祭などの祖宗行事を熱心に行うようになり―最初は皇太后口封じのために行っていたのが、太平洋戦争時には、敗色濃厚になるにつれアマテラスに熱心に戦勝祈願するようになっていた―「万世一系」の自覚のもと晩年まで祭祀の簡素化を拒み続けてきたとのことです。

 「皇祖神」信仰(或いは皇太后に対する責任意識)に比べれば、国民に対する責任意識は希薄だったようで(戦争降伏を決意したのは「三種の神器」を守るため !?)、そのことは、戦後の祈りについても同じで、敗戦を招いたことを「皇祖神」に詫び続け、平和への祈願も国民に向けてよりもまず「皇祖神」に向けてのものであり、戦争責任について記者会見で問われても国民に対する責任意識が無いために俄かに反応できず、ましてや戦争で辛酸を舐めたアジア諸国の人々を思い遣るといった発想はどこにもない―ということでしょうか。

 ショッキングな内容の本ですが、昭和天皇が貞明皇太后に抗えず祭祀を執り行うにあたり、どうやって自分を合理化したのかについて、生物学研究を通して神的なものに惹かれていったと考察しており、こうした考察を含め、先に結論ありきで進めていて、確証の部分が少し弱いようにも感じられました。
 ただ、個人の信仰や責任意識の度合いは不可知ではないかという気はするものの、『昭和天皇独白録』が、昭和天皇自らが作成に関与した戦争責任の「弁明の書」であること(吉田 裕 『昭和天皇の終戦史』('92年/岩波新書))などからも(高松宮は昭和天皇がA級戦犯に全責任を押しつけたことを批難している)、意識は国民より「皇祖神」の方へ向いていたというのは、生身の人間して考えた場合にあり得ることではないかと思った次第です。

《読書MEMO》
 1937年に勃発した日中戦争以降、天皇は毎年続けていた地方視察を中断する。また戦争の激化とともに、御用邸での滞在や生物学研究も中断されるが、宮中祭祀だけは一貫して続けられた。いやむしろ、天皇はますます祭祀に熱心になり、宮中三殿のほかに、靖国神社や伊勢神宮にもしばしば参拝する。特に靖国神社には45年まで毎年欠かさず参拝し、飛躍的に増えつつあった「英霊」に向かって拝礼するようになる。
 天皇の祈りを本物にしたのは、戦争であった。太平洋戦争が勃発した翌年の1942年、天皇は伊勢神宮に参拝し、アマテラスに僭称を祈った。戦況が悪化した45年になっても、天皇は祭祀を続け、勝利にこだわった。6月にようやく終結に向けて動き出すが、天皇が最後まで固執したのは、皇祖神アマテラスから受け継がれてきた「三種の神器」を死守することであって、国民の生命を救うことは二の次であった。(12p)

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2008年3月 4日 23:51.

【866】 ◎ 吉田 裕 『昭和天皇の終戦史』 (1992/12 岩波新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【868】 ◎ 吉川 幸次郎 『漢の武帝』 (1949/12 岩波新書) ★★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1