【863】 △ 岡田 正彦 『人はなぜ太るのか―肥満を科学する』 (2006/12 岩波新書) ★★★

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「原因」も「基準」もわからない部分が多いが、対策は一応あります、という感じ。

人はなぜ太るのか 肥満を科学する.jpg人はなぜ太るのか―肥満を科学する (岩波新書)』['06年]岡田 正彦.jpg 岡田正彦氏(略歴下記)
 
ダイエット.jpg 本書の内容を自分なりの印象で大きく分けると、肥満の「原因」「基準」「対処」についてそれぞれ述べられていると考えられ、そのうち、本書タイトルにあたる「原因」については、まだわかっていないことが多いということがわかった―という感じです(後天的なものか先天的なものかというのは、ヒトを使った長期的実験が出来ないため、完全に検証することは事実上不可能ということ)。

 それと、最近話題になっている「肥満の基準」についてですが、本書では〈BMI(体重/身長の2乗)〉が有効であり、〈ウエスト周囲長〉も、心筋梗塞の発生率などとの相関は高いとしていますが、最近、自宅でも使える電気抵抗を利用した測定器がブームの〈体脂肪率〉は、皮下脂肪と内臓脂肪を区分せず測定した結果であるなどの問題点があるそうです(個人的には、スポーツクラブでこの「ボディスキャン」体験した。体組成を"部位別"に測定できるのが売りで、筋肉量・骨量・体脂肪・基礎代謝などが5分間程度で測定できて手軽ではあったが、この場合の"部位別"とは、上半身や脚部ということであり、身体の内側・外側ということではないようだ)。

 だから〈BMI〉が基準として完璧かと言うと、スポーツ選手などでは当て嵌まらないケースもあり(BMI批判として体脂肪率が提唱された)、また、メタボリックシンドロームの主たる判定基準となっている〈ウエスト周囲長〉も、数値区分の根拠を明確化できていないため、実際にメタボリックかどうかを判定する際は、中性脂肪比、血圧、血糖値などと併せて総合判定しているとのこと。

 「原因」も「基準」もわからない部分が多いけれども、肥満対策は一応考えねば、という感じですが、予防医学の専門家であるだけに、運動療法や食事療法、医学療法などは、コンパクトに網羅されていて、一方、酒の飲み方と肥満の関係では俗説を正したりもし、また、同じ食事内容でもコレステロールの蓄積度には個人差が大きいことを指摘していて、なかなか興味深かったです。

 ダイエット本が多く出版されていますが、著者によれば、その多くは個人的体験を綴ったものにすぎず、そこで示されるダイエット法には、ナンセンスなものや、時に有害なものあるとのこと、それに対して本書は、「学術論文と同じぐらい新しく、間違いがなく、役に立つ情報を、わかりやすく纏めたつもり」であるとのこと、肥満の原因のわからない部分や、肥満の基準の曖昧な点を明かしているのは、学者としては良心的であるということになるかも。
 本書の内容の信用度自体は高いと思われるので、肥満が気になる人には啓蒙書として手元に置いておくと、少し安心できるかも知れません(安心するだけではいけないのだが)。
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岡田 正彦 (新潟大学医学部教授)
経 歴
1972年 新潟大学医学部卒業
1972年  同  医学部附属病院内科研修医
1974年  同  脳研究所助手
1990年  同  医学部教授
受 賞
・新潟日報文化賞(1981年度)
・臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」(2001年度)
実用化した研究
・悪玉中性脂肪の測定法(2005年):「悪玉中性脂肪(VLDL-TG)」の開発に成功、商品化の準備中。メタボリック・シンドロームを診断するための究極の検査法になると考えている。
・新潟スタディ(2000年):健常者約2,000名の健康状態を追跡調査している。目的は、日本人における動脈硬化症の危険因子を探るため。LDLコレステロール、HbA1c、肥満度、収縮期血圧が重要であることを発見。

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