「●樋口一葉」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●三島由紀夫」【2808】 大澤 真幸 『三島由紀夫 ふたつの謎』
「●ひ 樋口 一葉」の インデックッスへ
手頃かつ感動的? 一葉に限らず、禿木、鷗外、露伴、緑雨も若かったのだと再認識。
『ちびまる子ちゃんの樋口一葉 (満点人物伝)』 〔'04年〕
漫画による樋口一葉の評伝で、冒頭や合間の解説にこのシリーズのキャラクターとしての「ちびまる子ちゃん」が登場しますが、メインである一葉の生涯のストーリー部分は、『トルコで私も考えた』の高橋由佳利氏が描き、『一葉の四季』の森まゆみ氏(作家・東京国際大教授)が全体の監修をしている、楽しみながら読めて一葉の生涯を辿るのに手頃な1冊。
貧しい生活の中でも目標を失わず努力し、女性の職業選択の幅が狭かった時代に女流作家の道を切り拓いた彼女の真摯な生き様が、感動を以ってしっかり伝わってくるし、彼女をとりまく人たちの人物像も印象的でした。
とりわけ、"なつ"(一葉)の才能を信じて地道に彼女を助ける妹"くに"の姉想いぶりや、一葉が病に倒れた際にその妹"くに"に斎藤緑雨が、お姉さんは「必ず歴史に名を残す」、だから万一の時も、書き残したものを捨てないようにと言うクダリはいいなあ。
一葉の日記まで残っているのは、この2人の尽力の賜物かも(一葉が亡くなる前までに刊行されていた彼女の単行本は、生活費のために書いた手紙範例集『通俗書簡文』だけだった)。
高橋氏の漫画は、『トルコで...』のような漫画家が自分の身近な話のときによく用いる"戯画調"(ああいうの、何と呼ぶのだろうか)ではなく、正統派に近い所謂"少女漫画風"で、一葉が思いを寄せた半井桃水が登場した場面では、「あんた、レオナルド・デカプリオか」と突っ込みを入れたくなる感じの美青年風の描き方。
でも、「東京朝日新聞」の専属小説家として鳴らしていた桃水は当時31歳で、19歳の一葉から見ても、確かにその若さも含め魅力的だったのかも。
他にも、一葉の周辺に主要人物が登場する度にその時の年齢が示されていて、「文学界」に書いて欲しいと平田禿木が一葉を勧誘したとき彼は20歳、「たけくらべ」が世に出て森鷗外や幸田露伴といった文壇の"重鎮"がそれを高く評価しますが、彼らにしてもその時はそれぞれ34歳と29歳、一葉文学の本質を「熱い涙のあとの冷笑」と見抜いた斎藤緑雨も当時29歳といったように、一葉だけでなく、その周辺の人たちも若かったのだなあと思いました。
斎藤緑雨 (1868-1904)
緑雨は、森鴎外が創刊した文芸雑誌「めさまし草」の中で鴎外・露伴・緑雨の3人が評者として書いた合評欄「三人冗語」の中に、「(広い宇宙といっても間違いないものがふたつある)我が恋と、天気予報の『ところにより雨』」なんていう面白いフレーズがあったりする人ですが、この人も36歳で病のため早逝しています。
"おさらい"のつもりに読んだ「学習漫画」でしたが、新たに気づかされた点が結構ありました。