「●精神医学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1823】 岡田 尊司 『境界性パーソナリティ障害』
「人間関係を築けないという障害」の特徴と治療について平易に解説。
『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本 (健康ライブラリー イラスト版)』〔'07年〕
イラストを交え平易に解説した一般向けガイドブックで、「健康ライブラリー」の1冊ですが、同じシリーズに「パーソナリティ障害のことがよくわかる本」がありながら、「自己愛性パーソナリティ障害」を別立てでフィーチャーしているところがミソ。
この障害に絞って書かれた一般書が少ない中、いきなり専門知識ゼロでも読める本が出たのは、それだけ人間関係に悩んでいる人が多いということなのでしょうか(実際、価値観、家族関係などの社会的変化に伴って、患者数は増加傾向にあるという)。
「自己愛性パーソナリティ障害」は健康な人間関係を築けないという障害であり、本書によれば、根本にあるのは「愛しているのは自分だけ」という思いで、タイプとしては、次の2つの両極端な現れ方をするとのこと。
〈周囲を気にかけないタイプ〉 極端に自己中心的。他者から賞賛を求めるが、他者への配慮はなく、傲慢・不遜な態度が目立つ。
〈周囲を過剰に気にするタイプ〉 気にしているのは他者の目に映った自分の姿。内気に見えるが、尊大な自己イメージを持っている。
その外のパーソナリティ障害に比べ「自己愛性パーソナリティ障害」は中年層に多いらしく、治療は薬事療法によることもあるが、治療の柱となるのは精神療法で、家族ぐるみの対応が重要となり、批判や説教をすることはタブーであるとのこと。
「境界例」などと言われる「境界性パーソナリティ障害」は、引き離されること、失うことに過剰反応し、他者に依存しがちであるというのが特徴ですが、自己中心的で、対人関係の問題から情緒不安を招くという点では「自己愛性」に似ているため、実際の区別は難しいとも書かれています。
「自己愛性」における〈周囲を気にかけないタイプ〉の代表例が、シェイクスピアの『リア王』のリア王で、〈周囲を過剰に気にするタイプ〉の代表例が、太宰治の『人間失格』の主人公・葉蔵だそうです。
精神科医の磯部潮氏が『人格障害かもしれない』('03年/光文社新書)の中で、太宰自身を、「境界性人格障害+自己愛性人格障害」としていたのを思い出した―。