【833】 ○ ポール・コリンズ 『自閉症の君は世界一の息子だ (2007/01 青灯社) ★★★★

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「自閉症研究の足跡を辿る旅」と「自閉症のわが息子の療育・成長ぶり」の"複合技"。

自閉症の君は世界一の息子だ.jpg 『自閉症の君は世界一の息子だ』 〔'07年〕 NOT EVEN WRONG.jpg  "Not Even Wrong: A Father's Journey Into The Lost History Of Autism" Paul Collins

 米文学研究者で古書関係のべストセラー著作もある著者は、画家である妻と訪れた息子の3歳児健診で、息子に発達障害があることを知らされますが、それ以前に何となく関心を抱いていた18世紀の「野生児ピーター」の、その事跡を追う英国取材旅行中に、"ピーター"が自閉症ではなかったかという記述に出会っていて、息子の存在が自分を「野生児ピーター」へ引き寄せたのではないかという思いにかられます。

 以降、著者の古文書を探る旅は、自閉症研究の足跡を辿る旅へと転じ、「自閉症」の命名者であるレオ・カナーや、自閉症児のサバン症候群(特定能力に秀でた特質)を確認していたがその所見は長く歴史に埋れていたハンス・アスペルガーらの'40年代の研究成果、更にはフロイトの旧居へと遡り、やがて現代に舞い戻って、英国の自閉症の権威バロン=コーへン博士のもとに辿り着きます。
 本書は、こうした自閉症研究を巡る知的な旅の部分と、自閉症であると判明した息子との日常での触れ合いやその療育・成長ぶりを描いた部分が字縄を綯うような構成になって、知識人作家が書いたものらしい内容となっています。

 バロン=コーへン博士の調査によれば、自閉症が発生する家系には工学者、芸術家などが多いとのことで、著者の家系がそれに当て嵌まるのですが、アスペルガー症候群だったと言われるニュートンなどの事例を引いているように、著者はそのことを前向きに捉えようとしているようです。
 マイクロソフト社にビル・ゲイツを訪ねて行っていることも(彼もアスペルガーであると言われている)その表われだと思いますが、確かに、著者の息子は、3歳になっても親の呼びかけに応えない一方で、2歳で既に文字を読み、自閉症者に特徴的な「能力の島」現象を呈している。但し、あまり、この「島」の部分に過剰な期待を寄せるのもどうかという気もしました。

 ただ、そうした取材過程においての興味深い話が多くあるのが本書の特長で、マイクロソフト社で自閉症者が働いていて、また、同社が自閉症センターを匿名出資して設立しているというのもそうですが、一方で、精神病院や刑務所に入れられている人たちの中に多くの自閉症者が含まれている可能性をも、過去の記録を引いて示唆しています。

 原題は"Not Even Wrong"(間違ってすらいない)で、物理学者パウリが論敵の論点のズレを指して言った言葉ですが、本書では、自閉症者のコミュニケーションの特徴(コミュニケーション不全)を表すものとして用いられています。
 それが邦訳では「感動したい症候群」に応えるようなタイトルになっていますが、息子との触れ合いにおいて、ちゃんとそうした場面は用意されています(ノンフィクションですが、やっぱり作家的だなあ、この著者)。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年1月 6日 01:04.

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