【830】 ○ 秋本 治 『両さんと歩く下町―『こち亀』の扉絵で綴る東京情景』 (2004/11 集英社新書) ★★★☆

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路地・家屋に情緒があり、橋の袂・鉄橋下からの目線がペン画のタッチと相俟って新鮮。

両さんと歩く下町.jpg 『両さんと歩く下町―『こち亀』の扉絵で綴る東京情景 (集英社新書)』 秋本 治.jpg 秋本 治 氏

 1976(昭和51)年から週刊少年ジャンプ(集英社)に連載され、単行本で150巻を超える「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(通称"こち亀")の作者・秋本治氏が、東京の下町を背景とした"こち亀"の扉絵(連載の各回の冒頭にくる絵)を集め、下町の情景とその変遷を、まさに歩きながら語ったようなガイドブックで、併せて、作品の中でどのように用いられたかが語られているので、下町の情景を楽しみたい人にも、"こち亀"ファンにも楽しめるものとなっています。

 秋本氏は、亀有の生まれで昭和30年代から東京の下町を見続けてきた人、亀有・千住・浅草・神田・上野・谷中、隅田川に架かる橋の数々などを訪ね歩き、撮った写真から描き起こしたペン画にマンガの主人公たちを配したものを扉絵にしていますが、もともとはマンガの本編の背景だったものが、通常の背景のコマでは大きさなどに制限があるため、扉絵で使ったところ、読者の反響が大きく、いつの間にか扉絵だけで下町情景シリーズのようになったとのこと。

両さんと歩く下町2.jpg 新書見開きの左ページが全部それらの扉絵になっていますが、絵1枚1枚に作者の極私的な思い入れが感じられます。下町と言えば狭い路地や商店街、古い家屋に情緒があり、そうした風景を描いたものも多く含まれていますが、橋の袂(たもと)や鉄橋の下などからの目線で描いた絵も多く、ペン画のタッチと相俟って新鮮な印象を受けました(マンガとして読んでいる時は、扉絵や背景画をじっくり味わうということはあまりなかったからなあ)。

 本書は2004年の刊行で、実際に下町に住んで感じるのは、どんどん街が変わっていくということ(本書の中でも定点観察的に同じ場所から見た昔と最近の風景を描いたものがあるあが)、亀有にも'06年には都内最大級のショッピングセンター「アリオ亀有」がオープンしています。外から見れば、昔の雰囲気を失わない街であってほしいと思っても、そこで住んでいる人にしてみれば、自分たちの生活が便利になることの方が優先課題かも。但し、アサヒビール本社ビルでも大川端リバーシティ21でも、出来てしまえば何となく時間と共に下町の風景に馴染んでくるのが不思議です(隅田川や中川が変わらずにあるというのが1つのポイントだと思う)。

 巻末に著者と山田洋次監督との下町をめぐる対談があり、「寅さんシリーズ」の秘話などを知ることが出来るのも、楽しめるオマケでした。

秋本治 菊池寛賞.jpg 秋本治氏(第64回(2016年)菊池寛賞受賞)(C)ORICON NewS inc.
(受賞理由:一九七六年に連載を開始した漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を四十年間一度の休載もなく描き続ける。世相・風俗を巧みに取り入れ、上質な笑いに満ちた作品を本年二百巻で堂々完結させた)

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