【821】 ○ 森住 卓 『イラク・湾岸戦争の子どもたち―劣化ウラン弾は何をもたらしたか』 (2002/04 高文研) ★★★★

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「無脳症」の赤ん坊の写真に衝撃。劣化ウラン弾による核被害の深刻さが重く伝わってくる。

イラク湾岸戦争の子どもたち 劣化ウラン弾は何をもたらしたか.jpg      湾岸戦争の子供たち (森住卓写真集) - 英語.gif       森住 卓.bmp  森住 卓 氏(1951年生まれ)
イラク・湾岸戦争の子どもたち―劣化ウラン弾は何をもたらしたか』/英語版 『湾岸戦争の子供たち』

 フォトジャーナリストである著者が、'98年から'01年にかけてイラクを4回訪れ取材したものを、写真集として纏めたもので、タイトル通り殆どがイラクの子どもたちを撮った写真ですが、当時の経済制裁下の貧困の中、何とか明るく生きようとしている子どもたちの逞しさが伝わってくる一方、栄養失調や白血病のため入院・治療生活を送っている子たちの写真も多く含まれていて心が痛みます。

米原 万里(よねはらまり)エッセイスト・日ロ同時通訳.jpg 本書のことは、ロシア語通訳の故・米原万里氏が以前に書評で取り上げていて知りました。
 著者にとっては、旧ソ連の核実験場周辺に住む人々の生活と核による被害状況を5年間に渡り取材した『セミパラチンスク-草原の民・核汚染の50年』('99年/高文研)を上梓した(多分、この本で米原氏は著者の仕事に関心を寄せたのだろう)次の仕事で、最初はイラクは危険な国ということで敬遠していたようですが、「湾岸戦争」に従軍した米兵を親として生まれてきた子に癌や先天性障害が見られたという話は以前から聞いていたとのことで、イラクで医療支援をしている伊藤政子氏の講演会でイラクの核被害状況の話を聞き、いてもたってもいられなくなってイラクへ入ったとのことで、結局この仕事も4年間に及ぶ長期取材となりました。

イラク・湾岸戦争の子どもたち.jpg 写真は殆どがモノクローム、ルポルタージュとしてのトーンも抑制されていて、それだけに却って、現地の核被害の深刻さが重く伝わって来ます。

 「湾岸戦争」時に使われた劣化ウラン弾により、イラクの大地には広島に投下された原爆の1万4千倍から3万6千倍の放射能がばらまかれたとのこと、実際、栄養失調と併せて、劣化ウラン弾の影響による白血病や癌で亡くなる子が非常に多いということで、病院で、生まれたばかりの健康な赤ん坊が眠る隣で、「無脳症」で生まれ、迫り来る死と戦っている赤ん坊の写真にはショックを受けました。

 当時('02年初頭)イラクを「悪の枢軸」の1つと見做し、攻撃をちらつかせる米国ブッシュ大統領に対し、「この写真を見た上で、それでもなおかつ爆撃を強行するとしたら...私は言うべき言葉を知らない」と著者は結んでいますが、1年後には本当に戦争を始めてしまった...。しかも、その「イラク戦争」においても、劣化ウラン弾が使用されたという...。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年12月24日 02:28.

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