【820】 ◎ 米原 万里 『打ちのめされるようなすごい本 (2006/10 文藝春秋) ★★★★☆

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"打ちのめされるような"凄い姿勢。最初で最後の書評集になってしまったのが残念。

打ちのめされるようなすごい本.jpg 『打ちのめされるようなすごい本』 〔'06年〕 米原 万里(よねはらまり)エッセイスト・日ロ同時通訳.jpg 米原 万里 (エッセイスト・日ロ同時通訳、1950-2006/享年56)

 '06年5月に癌で亡くなった著者の書評集で、「週刊文春」連載の読書日記の'01年1月から'06年5月までの掲載分ほか、読売新聞の書評欄など他メディアに掲載した書評を収録しています。
 著者の本を読むのは初めてで、文春の連載は"見て"いましたが、こうして纏まったものをじっくり読んでみると、何かと収穫が多かったです。

 個人的には実質星5つですが、この人はエッセイ・小説でも賞を受賞している凄い人なので、そちらを読んでみてからということで星半個分出し惜しみしたかも(昔の体操かフィギアスケートの採点みたいだなあ)。
 文春書評欄で、"知の巨人"と呼ぶ人もいる立花隆氏や、仏文学者でビブリオマニアに近いと思われる鹿島茂氏らに堂々伍して書いているのも凄いし(もともと文筆家じゃなくてロシア語通訳が本職だったわけだから)、また、癌に侵されても「癌治療本を我が身を以って検証」する一方(それらに振り回されたような結果になったのが残念)、継続して広範囲の分野の本を紹介し続け、知識吸収意欲は萎えるどころか昂進している感じで、そのことも凄い、とにかく書評以前に、著者自身の姿勢に感服させられてしまったという思いもあります。

 一般に読みやすい本、入手しやすい本も多く含まれていて、立花隆氏の書評と比べると、読者にこの本を是非とも読んでほしいという気持ちが強く伝わってくる内容だと思います。
 但し、ロシア関係の本は小説・ノンフィクションを問わず、さすがに専門的なものが含まれていますが(鹿島茂氏が、他所で『知られざるスターリン』や『真説ラスプーチン』をとり上げていたのは、もしかして著者の影響ではないか)、一国の近現代史に通暁しているということが、そのまま、チェチェン、アフガニスタン、その他中東・アジア諸国などの周辺民族・諸国の動向を分析する眼力となっていることを、また通訳経験などを通して培われた、権力者分析などにおける透徹した視線を感じました。

 立花隆氏との共通項で一番に思いつくことは、ネコに関する本をとり上げていることかな。

 【2009年文庫化[文春文庫]】

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