【814】 ○ 山本 博文 『鬼平と出世―旗本たちの昇進競争』 (2002/05 講談社現代新書) 《 旗本たちの昇進競争―鬼平と出世』 (2007/05 角川ソフィア文庫)》 ★★★☆

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世間に人気のあった平蔵がなぜ町奉行になれなかったのかを解明。

鬼平と出世 旗本たちの昇進競争.jpg 『鬼平と出世―旗本たちの昇進競争 (講談社現代新書)』〔'02年〕 旗本たちの昇進競争 鬼平と出世.jpg 『旗本たちの昇進競争―鬼平と出世 (角川ソフィア文庫 337 シリーズ江戸学)』〔'07年〕

 池波正太郎が「鬼平犯科帳」シリーズのモデルとした旗本の長谷川平蔵(1745-1795)は、1787年から8年間、火付盗賊改を務めていますが、当時の噂話を集めた『よしの冊子』をもとに、彼の仕事ぶりや世間の評判、上司の評価などを読み解き、世間に人気のあった彼がなぜ町奉行になれなかったのかを解き明かしています。

 本書によれば、実際に彼には実力があり、また、不正には厳しく部下や弱者には慈悲深いその姿勢は、周囲や世間から歓迎されたようですが、一方で、前科者を目明しとして使用したり、スタンドプレイが多いことで、一部に反感も買っていたようです。

 何よりも、田沼意次失脚後に権力者となった松平定信が、平蔵の功績は認めたものの「山師」的人物というふうに彼を見ていて、平蔵本人は、出世して私腹を肥やそうというのではなく、世に貢献したいという気持ちで出世を強く望んでいましたが、上司とそりが合わなくてはどうしようもなく、頭打ちになってしまったようです。

 まあ世にライバルは多くいたようで、本書後半でスポットが当てられている平蔵の後任の、平蔵とは異なる知性派タイプの森山孝盛も、猟官活動を熱心にやったにも関わらず、町奉行になれないで終わっています(平蔵とは逆に、その杓子定規な性格が評価面で災いしたとも言える)。

 田沼時代に森山の同僚が、同格者に対する接待の席でブランド羊羹の1つ格下の羊羹を出して後で詮索された話などは、人望獲得を巡る悲喜劇と言え、江戸時代の"サラリーマン"も、出世しようとするならば、なかなか大変だったのだなあと。

サラリーマン武士道 江戸のカネ・女・出世.jpg 『サラリーマン武士道』('01年/講談社現代新書)に続く週刊誌連載コラムの新書化で、内容と共に黒鉄ヒロシの絵も楽しめ、また本書では、長谷川平蔵と森山孝盛の2人に焦点を絞っているために、コラムとコラムの繋がりがスムーズで一気に読めます。

 現代のサラリーマン生活との類似による身近さ、読みやすさのためか、'07年には、『旗本たちの昇進競争』(角川ソフィア文庫)として文庫化されています。

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