【809】 ○ 阿川 尚之 『アメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記』 (1986/10 中公新書) ★★★★ (○ ジェームズ・ブリッジス (原作:ジョン・ジェイ・オズボーン・ジュニア)「ペーパーチェイス」 (73年/米) (1974/03 20世紀フォックス) ★★★☆)

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日本の法科大学院とは似て非なるもの。エリート生成過程を通して見えるアメリカ社会。

Iアメリカン・ロイヤーの誕生―7.JPGアメリカン・ロイヤーの誕生.jpgアメリカン・ロイヤーの誕生 2.jpg 阿川尚之.jpgThe Paper Chase (1973).jpg 
アメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記 (中公新書)』 〔'86年〕阿川 尚之 氏(慶應義塾大学教授)/映画「ペーパーチェイス」('73年/米)

 著者は、大学を卒業してソニーに入社後、アメリカでの弁護士資格取得を思い立ち、休職願いを会社に受け入れてもらってジョージタウン・ロー・スクールに入学する―、本書はその留学3年間('81-'84年)の奮闘記。

 文章が生き生きしていて旨いのは、さすが作家・阿川弘之の息子だけあるということか(著者は、慶應義塾大学を中退、ジョージタウン大学の外国人枠で外交政策学部卒業した後、ソニーに入社したというのがそれまでの経歴)。

 アメリカでは、学部は専門教育の場とは考えられていないようで、ビジネス・スクール(履修期間2年)、ロー・スクール(同3年)、メディカル・スクール(同4年)などが別に設けられていて、'04年からスタートした日本の法科大学院は、ロー・スクールを参考に制度作りしたのは明らかですが(日本の場合、法学"未修"者は3年、"既修"者は2年)、あちらでは、そもそも"既修"という概念が無いし(全員が"未修"ということ)、"本家"のものは多くの面で日本のものとは似て非なるものという感じがしました。

 入学試験は一斉テストで、論理パズルのような問題。著者はハーバードなど8校に出願し4勝4敗、結局、高校時代に留学経験のあるジョージタウン大学のロー・スクールを選びますが、入ってからが大変です。

ペーパー・チェイス poster.jpgぺ―パーチェイス.jpg 本書でも引き合いにされてリンゼイ・ワグナーes.jpgいますが、まさにジェームズ・ブリッジス監督の映画「ペーパーチェイス」('73年/米)の世界です(原作('70年)はジョン・ジェイ・オズボーン・ジュニアが自らの体験を綴った同名小説、主演は「ジョニーは戦場へ行った」のティモシー・ボトムズと、後にTV番組「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」の主役となるリンゼイ・ワグナー)。
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 アメリカの司法は徹底した判例主義だけれど、州によって法律が違ったりするので尚更のこと大変そう。それと、映画同様、先生のタイプは様々ですが、全体としては実戦に近い形でのカリキュラムが多く組まれているようです。

 本書では、1年次の学年末試験と2年次のサマー・アソシエイト(事務所実習)が重点的に描かれていますが、それらの過程において学生たちは厳しい評価を受け、卒業後にどのランクのファームから引き合いがあるかが大体決まってしまうらしく、一方、卒業後に受ける司法試験は形式的なものに近いようです。

 学校の試験を受けるのに"ウェーバー"カードを提出しなければならなかったり(大リーグの選手移籍契約の時によく聞くが、要するに"訴権放棄"条項。落第しても文句がつけられない)、どの自主学習グループに入れるかが勝ち組・負け組となる重要な分かれ目だったりし、著者自身も「競争病」の徴候を自覚し、難所とされる最初の学年末試験を終えるまでは、出所を待つ刑務所の囚人のような気持ちだったとしています。

 著者がロー・スクールのJ.D.(法律博士)コースに入った'81年に比べれば、最近ではMBAブームほどでないにしても、あちらで弁護士資格を取る人も増えているようですし、日本にある外資系の法律事務所から留学している日本人弁護士もいますが、こうした場合はLL.M.と呼ばれる法学修士コース(履修期間1年)だったりすることが多いようで、やはり、ネイティブと同じ条件で3年学んだ体験は今でも貴重かも。

 単に"アメリカン・ロイヤーの誕生"と言うより、"アメリカン・エリートの生成"過程を通して、アメリカ社会が垣間見える好著ですが、自分自身が日本の法科大学院の実情をもっと知っていれば、より楽しめたかも。

ペーパーチェイス9.jpgTHE PAPER CHASE.jpg「ペーパーチェイス」●原題:THE PAPER CHASE●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・ブリッジス●製作:ロバート・C・トンLindsay-Wagner-and-Timothy-Bottoms-300x225.jpgプソン/ロドニック・ポール●撮影:ゴードン・ウィリス●音楽:ジョン・ウィリアムス●時間:118分●出演:ティモシー・ボトムズ/リンゼイ・ワグナー/ジョン・ハウスマン/グラハム・ベケル/エドワード・ハーマン/ボブ・リディアード/クレイグ・リチャード・ネルソン/ジェームズ・ノートン/レジーナ・バフ●日本公開:1974/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2007年12月15日 00:24.

【808】 ○ 楳垣 実 『外来語辞典 [増補]』 (1972/01 東京堂出版) 《[初版] (1966/02 東京堂出版)》 ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【810】 ○ 氏家 幹人 『江戸藩邸物語―戦場から街角へ』 (1988/06 中公新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

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