【797】 △ 安田 武 『昭和青春読書私史 (1985/10 岩波新書) ★★★

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思想家が、中学時代を送った昭和十年代の自らの読書体験を回想。

安田 武 『昭和青春読書私史』.jpg昭和青春読書私史.jpg 『昭和青春読書私史 (1985年)』岩波新書

銀の匙.jpgモンテ・クリスト伯.jpg 昭和十年代、戦争に向かう世相の中で中学時代を送った著者の当時の読書体験の回想。

 昭和12年春、中学1年の終わり頃手にしたアレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』から始まり、中学2年の時に読んだ中勘助(『銀の匙』)、モーパッサン(『ピエルとジャン』)、田山花袋、ジョルジュ・サンドらの作品、更に島木健作(『生活者の探求』)やツルゲーネフ(『父と子』)、ジイド(『狭き門』)などが続いています。

狭き門.jpg父と子.jpg 著者の安田武(1923‐1986/享年63)は鶴見俊輔氏らの起こした月刊誌「思想の科学」の同人で、本稿は岩波の『図書』に'84(昭和59)年から翌年にかけて連載されたものですから、60歳過ぎの思想家が自分の読書体験を振り返っているということになります。

 中学2年の時に読んだ本が最も多く取り上げられているのが興味深かったのと(旧制中学なので現在の中学と1年のズレがあり、当時14歳)、内容的には青春文学の定番を意外と外れていないようにも思えますが、夏目漱石などはそれ以前から読んでいたようで、やはり読み始めるのが早いなあと思いました。

西部戦線異状なし.jpg 昭和12年というと日華事変の年でもあり、学生生活に未だそれほど戦争の影響は無かったとは言え、軍靴の足音から意識的に距離を置くような読書選択をしているようにも思えました(但し、昭和17年には『西部戦線異状なし』を読んでいる)。

 日本文化を論じた著作が多く、多田道太郎(1924‐2007)などとの共通項を感じる人ですが、本書の印象は、中勘助(『銀の匙』)的ノスタルジーで、さらっと読める分、「読書の栞(しおり)」的な物足りなさもやや感じます。

ぼく東綺譚.jpg雪国.jpg ただし、終盤に取り上げられている『濹東綺譚』や『雪国』の著者なりの感想が面白く、また、『濹東綺譚』の挿画を担当した木村荘八の描いた「玉の井」が、実は「亀戸」の町並みであったことを武田麟太郎が見抜いていたという話が、たいへん興味深かったです(武田麟太郎の本からの抜粋ではあるが)。

      
   
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安田 武(1922-1986年1)評論家
東京都出身。1943年法政大学国文科在学中に学徒出陣。朝鮮の羅南で敗戦を迎え、ソ連軍捕虜となる。復員後、大学を中退。出版社勤務の後、1959年から評論家として独立文筆生活に入る。思想の科学研究会に属し鶴見俊輔、藤田省三らと「共同研究・転向」(1959年~1967年)に最初の業績を発表。1964年から1966年まで思想の科学研究会長。 また1960年の日本戦没学生記念会「わだつみ会」の再建に尽力し、常任理事を務めた。そのほか、日本文化に関する著作が多く、特に多田道太郎との対談『『「いき」の構造』を読む』などが有名である。戦争体験の継承、平和運動に一貫した姿勢を示す一方、伝統文化における技術の伝承の研究家としても知られる。

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