【787】 ◎ アスネ・セイエルスタッド (野中邦子:訳) 『バグダッド101日―早朝5時30分、米空軍の猛爆撃が始まった』 (2007/10 イースト・プレス) ★★★★★

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「観察し、報告し、書く」という姿勢が生み出す文学的"厚み"。

A Hundred and One Days on Iraq.gifバグダッド101日.jpg バグダッド101日.jpg Asne Seierstad.jpg Asne Seierstad (Folha Online)
バグダッド101日―早朝5時30分、米空軍の猛爆撃が始まった』(2007/10 イースト・プレス)

  1970年生まれの著者は、90年代から世界の戦地を取材してきたノルウェー人フリージャーナリストで、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンを取材した前著『カブールの本屋』('05年/イースト・プレス)は、世界的なベストセラーになっています。

 '03年1月に米国との交戦が濃厚となったイラクに10日間ビザで単身入国し、フセインの息子ウダイと掛け合って滞在延長許可を得、その後いったん国外退去になりながらも、「人間の盾」に紛れて再入国しようとしたりし、結局、高官に金銭を渡して、多くのジャーナリストが引き揚げるのと入れ違いに再入国を果たし、遂に3月、バグダッドで開戦を迎え、北欧人唯一のジャーナリストとして北欧諸国にレポートを送り続けます。
 本書は当時の回想記ですが、空爆や地上戦の最中にTVレポートを送り続ける場面などは、非常に緊迫感があります。彼女もまた、米軍の砲撃を受けたパレスチナ・ホテルにいた1人でした。

 こうして見ると、あたかも「深刻な衝突」やスクープを追う命知らずの戦場記者の典型のようですが、実際には、同業者の死に震える生身の人間であり、通訳の女性(フセインの信奉者)を思いやる優しさもあります。
 彼女を突き動かしているのは「観察し、報告し、書く」というジャーナリスト精神であり、開戦前にしろ、空爆直後にしろ、街中に出て、高飛びを目論む商人から戦火で子どもを失った親まで様々な人に話を聞き、その言葉を再現していて、(端的に言えば、直接見聞きしたもの以外は書かないという姿勢により)まるで戦争文学を読むような"厚み"効果を生じています(引用されている当時の彼女の配信記事にも、その姿勢が貫かれている)。

 とりわけ優れていると思われたのは、開戦前3カ月の市井の人々に対する根気強い取材から、当時のバグダッド市民の様々な考え方や気持ちが浮き彫りにされている点で、最も哀しかったのは、取材相手が永遠に言葉を発することがない、大人や子どもたちの遺体が横たわる遺体安置所の取材場面でした。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年11月26日 00:44.

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