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「江戸前なんてニセモノ」という通説を覆す旅。
『東京湾漁師町―江戸前の食を求めて』 (2006/09 生活情報センター)
東京湾にまだこんなに色々な魚がいて、またそれを獲る漁師たちがいて、彼らの暮らす漁師町がいくつもあったのだなあと驚かされる写文集。とにかく写真が鮮やかで、写っている獲れたての魚介類がみずみずしいし、それぞれの地元の魚料理もおいしそう。漁師たちの日焼けした笑顔もいい。
著者は、現在「食コラムニスト」ということですが、もともと世界中を放浪していたジャーナリストだったのが、魚好き料理好きが昂じて地魚料理店を営むようになったという凝り性の人。しかし、世界中を放浪した末に行き着いたのが、東京湾だったという意外性がいいし、千葉・館山から神奈川・三崎まで東京湾を逆時計回りに回る旅を通して、「江戸前なんてニセモノ」という通説を見事に跳ね返してみせています(そんな知ったかぶりをしたら、本書に出てくる漁師さんたちに怒られる)。
館山の塩イカ、保田のキンメダイ煮、竹岡のシロギスの南蛮漬け、富津名物のアナゴ天丼、冷や飯にアサリの味噌汁をぶっかけた深川めし、川崎の蛤鍋、小柴名物のシャコ、横須賀のミルクイ、宮川のメバルの煮付け...etc. おいしそうなものを挙げればキリがありませんが、本書によれば、アナゴの白焼きにハゼの天ぷらが、やはり江戸前の代表格といったところなのでしょうか。
主に海辺(かいへん)の大衆食堂を取材し、庶民の味に的を絞っているのがうれしく、夜中に本書をパラパラめくっていると無性に魚料理を食べたくなってくるのが困る点です。
《読書MEMO》
●目次
第1章 内房編1 洲崎から保田まで(洲崎―白亜の洲崎灯台が東京湾の船の出入り見守る
香―香でアジの磯料理に感嘆も漁港は荒涼として ほか)
第2章 内房編2 金谷から浦安まで(金谷―クロダイ釣り師に迎えられ黄金アジに見送られた金谷行
竹岡―竹岡の魚屋料理店で新鮮魚貝に悶絶す! ほか)
第3章 湾奥編1 葛西から羽田まで(葛西―葛西臨海公園で魚のゆりかごアマモを見つける
深川―東京下町に江戸前「深川めし」を求める ほか)
第4章 湾奥編2 川崎から横須賀まで(川崎―チャキチャキ女将が仕切る川崎大師の「蛤鍋」
生麦―生麦魚河岸通りの活気、子安浜の無邪気 ほか)
第5章 三浦半島編 三浦から城ヶ島まで(三浦金田―旅情漂う三浦のダイコン畑と金田漁港の朝市
宮川1―磯海苔と潮の香りをおかずに宮川湾の昼下がり ほか)