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懐胡散臭さければ胡散臭いほど"ヴンダーカンマー的"だというキッチュな味わい。
『愉悦の蒐集ヴンダーカンマーの謎 (集英社新書ヴィジュアル版)』〔'07年〕
ヴンダーカンマーとは、直訳すれば"不思議の部屋"という意味で、16世紀から18世紀にヨーロッパで盛んに作られ造られ、美術品、貴重品の他に、一角獣の角、人相の浮かび上がった石など珍奇で怪しげな品々が膨大に陳列されていた、博物館の元祖とも言うべきもの。
本書によれば、もともとはルネサンス期の王侯が城の片隅に珍品を集めた小部屋を造り、客人を招き入れて驚かせたり自慢したりするのが目的だったらしいけれども、バロック期になると王侯や富裕市民は珍品収集に熱をあげ、森羅万象を再現すべく、自然物、人工物、自然と人工の複合物などを "ノアの箱舟"的発想で何でもかんでも蒐集したらしいです。
珍獣の剥製から人の死体を加工しオブジェ化したもの、異国の民芸品から最先端の美術・工芸品まであり、まさに「怪奇博物館」といった感じ。
昔どこかの寺で見た河童のミイラ(猿と何かの組み合わせだった)とか、かつて温泉街によくあった秘宝館の展示物に通じるような胡散臭さもあり、胡散臭さければ胡散臭いほど"ヴンダーカンマー的"であるというのが、キッチュな味わいがあり面白いです。
写真が豊富で、綺麗に撮られていますが、実際にそこを訪れれば、もっと迫力が感じられるだろうなあという気がするし、ましてや博物館・民芸館などの施設が無かった当時の人々にとっては、かなり刺激的な"愉悦"だったのではないでしょうか。
科学的実証主義が浸透すれば消えていく運命にあったヴンダーカンマーであり、雑多なコレクションの多くは美術館にも博物館にも行きそこねたのではないかと思われますが、そうした物を掘り起こそうとしている博物学者もいるわけで、「ニッポン・ブンダーカマー 荒俣宏の驚異宝物館」展の開催('03年)に見られるように、日本にも前からこういうの好きな人、結構いたのかも。