【775】 ◎ 土居 健郎 『「甘え」の構造 (1971/02 弘文堂) ★★★★☆

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年代を超えた説得力。近年の「日本人論」よりも知的エッセンスでは一段上。

「甘え」の構造 (1971年).jpg  「甘え」の構造3.jpg  「甘え」の構造4.jpg 「甘え」の構造5.jpg 土居健郎.jpg 土居健郎 氏
「甘え」の構造 (1971年)』/『「甘え」の構造』第3版〔'91年〕/『「甘え」の構造 [新装版]』〔'01年〕/『「甘え」の構造 [増補普及版]』〔'07年〕

「甘え」というものを、周りの人に好かれて依存したいという日本人独特の心理として分析し、日本の社会における種々の営みを貫くものとして「甘え」を論じた'71年刊行のベストセラーで、'91年刊行の「20周年記念」版で再読しました(表紙に「20」という数字がある)。

 「甘え」の心理の原型は母子関係における乳児心理があり、他の人間関係においても、親子関係のような親密さを求めるのが日本人の特質だという言説には批判もあり(乳児心理は普遍的だから、精神分析論的に論じると外国人にも「甘え」の心理はあるということになる)、社会現象、文学作品、天皇制など幅広いジャンルを「甘え」というキーワードで論じている分、それぞれにおいても反論があり、著者自身、その後も続編などで反駁したり説明不足を補ったり(若干の修正も)しています。
 にも関わらず、オリジナル版がたびたび復刻しているのは、オリジナル版に年代を超えた説得力がそれなりにある証拠ではないかと思います(刊行30周年にあたる'01年にも新装版が出され、'07年にも増補普及版が刊行された)。

 読み直してみて、「義理と人情」の項が面白かったです。
 著者によれば、両者は対立概念ではなく、義理とは人為的に人情が持ち込まれた関係であり、義理が器であるとすれば、その中身は人情であると。
 「一宿一飯の恩」などと言いますが、恩とは人から情け(人情)を受けることで義理が成立する契機となるものであり、義理人情の葛藤というのは、恩を受けた複数の相手方の片方に義理を立てれば片方に義理を欠くということであり、相手方の好意を引きたいという意味では、ともに甘えに根ざしていると(人情を強調すれば甘えの肯定となり、義理を強調することは関係性を賞揚することになるが、甘えを依存性という言葉に置き換えると、それを歓迎するか、そうした関係に縛られるかの違いに過ぎないと)。

 続く「他人と遠慮」と「内と外」「罪と恥」の項も面白い。
 遠慮というのは、親子と他人の中間的な関係において働くものであり、親子の間では無遠慮であり、また、全くの他人に対しても往々にして、同様に無遠慮でいることができる、遠慮とは相手に甘えすぎてはいけないという意識であり、遠慮が働くのは根底に甘えがあるからだと。
 日本人が恥を感じるのは、そうした中間的な関係にあたる帰属集団に対してであり、集団から仲間として扱ってもらえなくなることを日本人は恐れる傾向にあると。

 日本人論(それも自省的なもの)がベストセラーになることは多いですが、近年のその類のものに比べて本書は、やや時代を感じる面もあるものの、知的エッセンスでは一段上という感じがします。

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土居 健郎(どい・たけお〉2009年7月5日、老衰のため死去。89歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年11月12日 00:35.

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