【772】 ○ 根本 橘夫 『傷つくのがこわい (2005/05 文春新書) ★★★☆

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セルフカウンセリング的な効用がある本? 「夢を持つこと」が難しい社会なのかも...。

傷つくのがこわい.jpg 『傷つくのがこわい (文春新書)』 〔'05年〕 人と接するのがつらい.jpg人と接するのがつらい―人間関係の自我心理学 (文春新書 (074))』 ['99年]

ca_img02.jpg  この著者には、同じ文春新書で『人と接するのがつらい―人間関係の自我心理学』('99年)という本もあり、自我心理学が専門だと思いますが、人間関係など社会生活で悩んでいる人への思いやりが感じられ、本書もまた、ブックレビューなどを読むと好評のようです。

 前半部では、傷つくとはどういうことか、なぜ若者は傷つきやすいのかが、最近の社会動向、学校・家庭・職場内で見られる傾向なども分析しながら丁寧に解説されていて、後半部では心傷ついたときにはどうすればよいか、傷つかない心を持つにはどうしたらよいかが、カウンセリング理論をベースに、自律訓練法やリラクゼーションなどの方法論にまで落とし込んで書かれています。

 新書という体裁上、1つ1つの方法論についての解説は簡略なものですが、そこに至るまでに「傷つく」ということを心理学者の立場から臨床的に分析しているため、読者にすれば、本書を読むことで自らの「傷つき」を対象化することができ、セルフカウンセリング的な効果が得られる、それが好評である一因なのではないかと思われます。

 前半と後半の間に、「傷つきやすい若者への接し方」という章があって、社会そのものが若者を傷つけやすい構造になってきていることを指摘し、そうした「傷つきやすい若者」に対して、よき相談相手になることと、彼らの「自己価値観」を高める配慮をすることの大切さを説いています。

 この中で注目すべきは、フリーターやニートの増加を、単に若者の労働意欲の低下によるものではなく、彼らをとりまく厳しい労働環境との関係で捉えている点で、レビンソンの〈ライフサイクル論〉を引きながらも、現代の若者が大人としてのアイデンティティの確立が遅れているのは、社会が「余裕のない」「夢を持てない」ものになっているからだとしています(叶わぬ「夢」を保留するために現実への関与を避け、その結果モラトリアム期間が長期化するということ)。

 "新米成人"にとって「非現実的な夢にしがみつくこと」も「夢の全面的放棄」も満足な生活を与えてくれるものでなはなく、レビンソンに習って、「夢を生活構造の中に位置づけること」が大切であるとしながら、著者自身が認識するように、社会そのものが「夢を持てない」ものになっているというのは、結構キツイ状況だなあと感じました。

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