【771】 ○ 村上 宣寛 『「心理テスト」はウソでした。―受けたみんなが馬鹿を見た』 (2005/03 日経BP社) ★★★☆

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ロールシャッハ、YG、内田クレペリンを俎上に。読み物としては面白かった。

「心理テスト」はウソでした。2.jpg「心理テスト」はウソでした。.jpg 村上宣寛(むらかみよしひろ)教授.jpg 村上宣寛(むらかみよしひろ)・富山大学教授 〔性格心理学、教育測定学〕
「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た』〔'05年〕 

 心理テストと呼ばれるものの曖昧さ、いい加減さを心理テストの専門家自身が(この人、"野宿"の大家でもあるらしいが)、統計学的・実証的に検証してみせた本で、第1章で「血液型人間学」、第2章で「万能心理テスト」、第3章で「ロールシャッハ・テスト」、第4章で「矢田部ギルフォード性格検査(YG検査)」、第5章で「内田クレペリン検査」を俎上に上げています。大学の一般教養の講義を受けているかのように気軽に読め、しかも、隣りの教室で教えている心理学の授業は間違っているよ、みたいな内容なので面白かったです。

 ただし、「血液型人間学」というのは、著者の論駁以前に、未だにこれを科学だと思っている人がいるのかなという気が、個人的にはしました。一方、「万能心理テスト」とは、誰もが「当たっている!」と感じる質問や結果を並べた"ひっかけ"テストのことで、著者が大学院生などに試みて、全員に同じ結果を配っているのに殆どがきれいに騙されているのが面白かったですが(実際、この部分が本書で一番愉快だった)、本書における本格的な心理テスト批判ということになると、第3章以下の、ロールシャッハ、YG、内田クレペリンの3つに対する批判であると言えるでしょう(("3つのみに対する批判"とも言えてしまうが)。

shukanbunshun071108.jpg 高名な学者の言っていることが、比較的簡単な実験でその論拠が大きく揺らいでしまうのが面白く、特にロールシャッハは、権威者3名の同一テストに対する分析がバラバラで、しかも実態から大きく外れているという結果に。YG、内田クレペリンは、学生時代に自ら被験者になり、また結果分析もしたことがあるので身近に感じましたが、その当時から信憑性に疑義があり、今時こんなの使っているのかなという気もしました(実際には、批判も多い一方で、精神科や心療内科などで根強く用いられているようだが)。

「週刊文春」'07年11月8日号(ロールシャッハの誕生日)表紙 デザインは和田誠氏オリジナル

 後書きに、仕事の能力は測れるかというテーマをとりあげ、「SPI」や「コンピテンシー」について若干触れていますが、一般学生や企業の実務担当者などの側からすれば、むしろこのあたりをもっと突っ込んで書いてほしかったという気がするのでは。

 統計の話などは往々にしてつまらなくなりがちですが、わかりやすい論理展開と軽妙なテンポで読者を導き、読み物としては面白かったです。
 
 【2008年文庫化[講談社+α文庫]】

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