【769】 ○ テンプル・グランディン/マーガレット・M・スカリアーノ 『我、自閉症に生まれて (1994/03 学研) ★★★★

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自閉症者が自身の特性について書いた初めての本。分析の水準は高い。

我、自閉症に生まれて13.JPG我、自閉症に生まれて.jpg Temple Grandin.gif   Dr. Temple Grandin's Web Page.jpg Web Page
我、自閉症に生まれて』 〔'94年〕 Temple Grandin 

 自閉症者本人が、自己が抱える自閉症の特性について書いた世界で初めての本で、原著("Emergence: Labeled Autistic")出版は'86年ですが、その後、脳神経科医オリバー・サックス博士の著書『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』('95年)の中で紹介されて有名に(ただし、邦訳はその前に出版されている)。
 自閉症者にとって世界がどのように感じられ、どのようなことが苦痛であり、どのようなことに安堵するか、社会と折り合いをつけるのにどのような壁があり、それをどのようにして乗り越えてきたかがよくわかります。

 著者のテンプル・グランディン(1947年生まれ)は、6歳の時に自閉症と診断され、神秘的な発作や知覚過敏を抑制するために、牛桶から着想を得て「締めつけ機」を開発、その後、動物学の博士号を取得し、大学の准教授として勤める傍ら、「畜産動物扱いシステム会社」の社長として成功しています。

 本書が執筆されたのは彼女が30代後半の頃ですが、自閉症に起因する、子供の頃の混乱に満ちた世界観や感性が生き生きと(幼年期の記述は、共同執筆者の協力を得て書かれているようだが)、かつ分析的に書かれていて、特に自閉症の特質に関する記述は、その後の専門家の研究内容の先駆となるような高い水準です。

 彼女は知能指数137の高機能自閉症であるうえに、その後出版された『自閉症だったわたしへ』('92年)の著者ドナ・ウィリアムズが愛情に恵まれない少女時代を送ったのと比べても、指導環境に恵まれたと言えます。
 彼女が設計した「締めつけ機」は全米の屠殺場で使用されていますが、これは、虐待的な家畜施設の改善を図るもので、彼女自身、『動物感覚-アニマル・マインドを読み解く』という本を書いているぐらい、"牛の気持ち"になっているわけです。

 それにしても、屠殺される前の牛の神経を落ち着かせるためにその牛の体を挟む装置が、自身にとっても、落ち着かない時にその装置に身体を挟むと安心感があって"お薦め"であるというのは、写真入りで紹介されているのを見ると、最初はちょっと引いてしまった...。
 発想の順番も、牛よりも自身を落ち着かせることが先なのだろうけれど、その後、日本でも自閉症者が書いた本が出版されるようになり、彼(彼女)らが独特の触覚刺激を持っていることが、研究上も注目されるようになっています。

The Boy Inside.jpg 以前来日したこともありますが、最近どうしているのかなと思ったら、教育番組を対象にした国際コンクール「日本賞」(NHK主催)の青少年番組部門の受賞作「少年の内面」The Boy Inside 製作国:カナダ)という自閉症の中学生少年の内面とその家族の苦悩を描いたドキュメンタリーに出ていました(番組のプロデューサーがこの少年の母親で、自らカメラも撮っていて、成人自閉症者を訪ねるという場面でテンプル・グランディンが登場)。
 彼女ももう59歳だけど、てきぱきとした女偉丈夫ぶり(身長180cm)は変わりなかったです。

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