【767】 ◎ 小澤 勲 『認知症とは何か (2005/03 岩波新書) ★★★★☆

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認知症についての基礎知識が得られるとともに、著者の人間的な研究姿勢に頭が下がる。

認知症とは何か.jpg 『認知症とは何か (岩波新書)』 〔'05年〕  小澤 勲.jpg 小澤 勲 医師 (略歴下記)

 本書によれば、認知症というのは、記憶障害や思考障害などいくつかの症状の集まりを指す本来は「症候群」と呼ぶべきものであるとのことですが、代表的な疾患として、変性疾患アルツハイマー病など脳の神経細胞が死滅、脱落して、脳が萎縮することによるもの)脳血管性認知症(脳の血管が詰まったり破れたりすることによるもの)があるとのこと。

 中核症状としての記憶障害が現れるのは、身体に染み込んだ記憶(非陳述的記憶)よりも言語で示される記憶(陳述的記憶)においてが先で、その中でも、単語の意味や概念などの「意味記憶」よりも、「いつ、どこで、何をした」というような「エピソード記憶」の障害から始まることが多いとのこと、また、「リボーの原則」というものがあり、代表的な原則の1つが「記憶は最近のものから失われていく」というもので、認知症患者に接した経験のある人には、何れもそれなりに得心する部分が多いのではないでしょうか。

 老人医療施設などで老人が輪になってデイケアを受けている場面がよくありますが、著者によれば、アルツハイマー病と脳血管性認知症では「生き方」が全く異なり、アルツハイマー病患者は共同性を求めるが脳血管性の患者は個別性を求めるので、こうした輪には馴染みにくいとのことです。
 知り合いの老人医療施設に勤める人が、こうした集団的デイケアにまったく参加しようとしない患者さんも多くいるという話をしていたのを思い出しました。

吾妹子哀し.jpg 本書前半の第1部は、こうした認知症に関する客観的・医学的知識を紹介しているのに対し、後半の第2部では、文学作品(青山光二『吾妹子哀し(わぎもこかなし)』)を通して、認知症患者の心のありかを探るとともに、クリスティーンさんという認知症を抱えながらも講演活動で世界中を飛び回っている女性患者を通して、認知症の不自由とは何かを考察しています。

 彼女のケースはかなり稀有なものであるような気がしますが、「高機能認知症」という著者オリジナルの推論的概念は興味深いものがあり、また、著者自身が余命1年というがん宣告を受けている身でありながら、精神科医として、また人間として、認知症患者の世界に深く関わり続けようとする姿勢には頭が下がる思いがしました。
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小澤 勲 (おざわ いさお)
1938年、神奈川県生まれ。京都大学医学部卒業。京都府立洛南病院勤務。同病院副院長、老人保健施設「桃源の郷」施設長、種智院大教授を歴任。著書に「痴呆老人からみた世界」「物語としての痴呆ケア」など。

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小澤 勲 (おざわ・いさお=精神科医) 2008年11月19日、肺がんのため京都府宇治市の自宅で死去、70歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年11月 3日 00:52.

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