【764】 ○ T・K生/「世界」編集部 『韓国からの通信 (1974/08 岩波新書) ★★★★ (○ T・K生/「世界」編集部 『続・韓国からの通信 (1975/07 岩波新書) ★★★★)

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朴正煕政権圧制の闇をリアルタイムでレポート。韓国政治って不思議だ。

韓国からの通信』.JPG韓国からの通信.jpg  韓国からの通信〈続.jpg韓国からの通信―1972.11~1974.6 (岩波新書 青版 905)』〔'74年〕 『韓国からの通信〈続(1974.7-1975.6)〉 (1975年)
朴正煕(パク・チョンヒ).jpg 韓国の朴正煕政権(1963‐79年)は'72年に戒厳令を発してから急速に独裁色を強めましたが、本書は、その思想・言論統制が敷かれた闇の時代において、政府の弾圧に苦しみながらも抵抗を続ける学生や知識人の状況をつぶさに伝えたレポートです。正編は'72年11月から'74年6月までを追っていて、'73年1月の「金大中(キム・デジュン)氏拉致事件」が1つの"ヤマ"になっています。
朴正煕(パク・チョンヒ)

金鐘泌(キム・ジョンピル).jpg '06年に韓国・盧武鉉大統領は、田中角栄首相(当時)と金鍾泌(キム・ジョンピル)首相(当時)との間で交わされた事件の政治決着を図る機密文書を発表('73年11月、金鐘泌当時国務総理(左)が、東京の首相官邸で田中角栄首相に会っている。金総理は金大中拉致事件に関連し、朴正煕大統領の謝罪親書を持って陳謝使節として日本を訪問した)、'07年には、韓国政府の「過去事件の真相究明委員会」の報告書で、KCIAが組織的にかかわった犯行だったことを認めていますが、これらのことは既に本書において推察済みのことでした。しかし、金鍾泌というのは、朴政権パク・クネ3.jpgパク・クネ2.jpgパク・クネ1.jpgの立役者でありながら、後の金大中政権でも総理になっているし、朴正煕の娘・朴槿恵(パク・クネ)も政治家として活躍しています。この辺りが韓国政治のよくわからないところで、韓国政治って不思議だなあと思います(朴槿恵は2013年に大統領に就任。2015年の大統領弾劾訴追での罷免後、懲役24年の実刑判決を受けた)

 朴正煕は、自己の権力の座を守るために"北傀(北朝鮮)の脅威"というものを最大限に利用した政治家であり、そのために多くの学生や言論人が、"北のスパイ"として拷問されたり処刑されたりしていく様が、本書ではリアルタイムで生々しく伝えられており、これでも経済成長を遂げている近代国家なのかと震撼せざるを得ませんでした。

 翌年刊行された続編は'74年7月から'75年6月までを追っていて、'74年8月の「文世光事件」以降、朴政権の学生運動家らに対する弾圧はさらに強まり、拷問や処刑がますます繰り返されるようになりますが、朴正煕の生育歴(厳格な父の下でスパルタ教育を受けた)などにも"T・K生"の考察は及んでいて、「ファシズム統治のためには社会不安が必要である」(「続」224p)とありますが、彼自身が完璧主義から来る一種の不安神経症状態だったのではないかという気がします(本書を読んだとき、こうした独裁者は暗殺されるしかないなあと思ったが、結局その通りになったものの"謎"の多い結末で、朴政権の負の遺産も続く何代かの大統領に引き継がれてしまった)。

池明観〔チ・ミョンクワン〕氏.jpg 本シリーズは第4部まで続き、後に"T・K生"が自分であることを明かした池明観(チ・ミョンクワン)氏によると、書かれていることの80%以上は事実であると今でも信じている」とのことです。
 多分に伝聞情報に頼らざるを得なかったのと、この本自体が1つの反政権運動的目的を持ったプロジェクトの産物であるとすれば、記述のすべてに正確さを求めるのは土台無理なのかも知れず、だからと言って、本書を通じて隣国がつい30年前ぐらい前はどんな政治状況にあったかに思いを馳せることが無意味なわけでも無く、このレポートを過去の遺物であるとして葬り去る必要もないと思います。

南ベトナム政治犯の証言』川本邦衛編、『韓国からの通信』『第三・韓国からの通信』T・K生、「世界」編集部編
『韓国からの通信』『第三・韓国からの通信』T・K生、「世界」編集部編、 『南ベトナム政治犯の証言』川本邦衛編.jpg

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池明観(チ・ミョングァン)
2022年1がty1日、脳梗塞のためソウル近郊、京畿道南楊州市の病院で死去。97歳。1970~80年代にペンネーム「T・K生」として韓国の民主化運動弾圧の実態を月刊誌「世界」の連載で告発した。03年に自身が「T・K生」であったことを明らかにした。

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