【762】 ○ 吉田 裕 『アジア・太平洋戦争―シリーズ日本近現代史6』 (2007/08 岩波新書) ★★★★

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軍部の度重なる判断ミスの犠牲になったのはどういった人たちだったかがわかる。

アジア・太平洋戦争.jpg 『アジア・太平洋戦争 (岩波新書 新赤版 1047 シリーズ日本近現代史 6)』 〔'07年〕

 岩波新書の「シリーズ日本近現代史(全10巻)」の1冊ですが、このシリーズは、「家族や軍隊のあり方、植民地の動きにも目配りをしながら、幕末から現在に至る日本の歩みをたどる新しい通史」というのがコンセプトだそうです。
 "通史"と言いながらも年代区分された各巻ごとにそれぞれ筆者が異なり、執筆方針もかなり執筆者側に委ねられているようですが、家族、軍隊、植民地の3つがポイントになっているという点ではほぼ共通しているように思えます。

 本書では、1941年から45年までの5年間、つまり太平洋戦争に絞って解説していますが、著者はこの戦争を、満州事変・日中戦争も含めたうえでの「アジア・太平洋戦争」という捉え方をしています。
 日米戦であると同時に、アジア権益をめぐる日英戦として本戦はスタートしており、実際に41年12月の開戦時も、真珠湾攻撃よりも1時間早く英領マレー半島のコタバル上陸が始まっていているのは、それを象徴するような事実です。

 本書では、なぜ当時の日本は開戦を回避できず、また戦いが長期化して周辺アジア諸国に犠牲を強い、日本とアジアの関係に深い傷跡を残したのかを、さまざまな記録から検証していますが、「御前会議」において昭和天皇が果たした「能動的君主」としての役割など、最近の資料研究も織り込まれていて興味深いものがあります。

 開戦後すぐにこの戦争は対米戦としての様相を強め、なぜ国力が桁違いの大国アメリカと戦争したのかと今でも疑問視されますが、本書を読むと、軍事面だけで見ると、開戦時においては日本の軍事力の方がアメリカより上だったことがわかります。
 ミッドウェー海戦やガダルカナル戦で日本が劣勢に向かう転機になったとされていますが、例えばガダルカナルにおいては艦艇の損失は日米拮抗しており、日本にとって痛手だったのは、地上戦において米軍の十倍以上の2万余の死者を出したことで(その4分の3は病死または餓死)、こうした人的損失が兵員の不足やレベル低下を招いたと―。
 ガダルカナルの敗因は補給路を絶たれるという戦略的ミスですが、日本軍はその後もインパール作戦などで同様の過ちを繰り返すわけです。

 こうした軍部の度重なる判断ミスの犠牲になったのは、まず第1に、戦場に散った兵士たちですが、本書では、戦場における兵士の惨状だけでなく、軍隊内の私刑や特攻隊員の不条理な選ばれ方、軍に苦役させられた中国人や殺害された沖縄県民のことなども書かれています。
 「アジア・太平洋戦争」という事例を通してですが、戦争とはどのようなものなのか、結果としてどのような人々が苦しむのか、戦争というものが孕む矛盾がよくわかる本です。

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