【755】 △ 高山 智博 『アステカ文明の謎―いけにえの祭』 (1979/01 講談社現代新書) ★★★

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生け贄はアステカ的美? アステカ文明のダークな一面をまざまざと。

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アステカ文明の謎―いけにえの祭り』 青木晴夫『マヤ文明の謎

 本書と同じく講談社現代新書で中央アメリカの古代文明を扱ったものとして、青木晴夫氏のマヤ文明の謎』('84年)があり、そちらを読んだ後で本書を読んだのですが、アステカもマヤと同じく高度の天文技術を持った文明でありながら、驚かされるのは、アステカでは18カ月周期の正確な暦に沿って、各月ごとに様々な形で生け贄を捧げているということ。

 マヤ文明の諸国でも生け贄の儀式は行われていましたが、アステカのそれは凄惨で、敵国の捕虜だけでなく、自国の若者・女・子どもが次々と人身御供として捧げられていく様は(両手両足を押さえつけられて、生きたまま心臓を抉りとられるのが最も一般的なパターンですが)、読んでいて気分が悪くなるぐらいです。

 両著に生け贄を捧げる理由が書かれていますが、生け贄を捧げないと、沈んだ太陽が昇ってこなくなると考えていたらしく(天文学が発達していたことと宗教は全くリンクしないのか...)、それにしても、この高山氏の著書の方は"生け贄"に的を絞って人身御供の捧げられ方が詳細に書かれているだけに、アステカという文明に対して非常にダークなイメージを抱かざるを得ませんでした(青木氏の著書にも、マヤ文明が後期において生け贄を捧げる習慣を強めたのは、後発であるアステカ族の影響であるようなことが書かれている)。

Tenochtitlán,.jpg ラテンアメリカ民俗学の第一人者・増田義郎氏の『古代アステカ王国―征服された黄金の国』('63年/中公新書)の中にも、高度に文明化した水上首府(公衆トイレとかもあってスペイン人が驚いたという)の街の中央にピラミッドがあり、その頂きの祭壇は、生け贄になった犠牲者の血に塗られているという、現代の我々から見れば極めてアンバランスな宗教と文明の同居状態が紹介されていました。

 著者(高山氏)は、「このようなことから彼らを簡単に野蛮で残酷な民族だという烙印を押してしまうのは早計すぎ」としていて、古代の宗教的儀式を現代人の倫理感覚で捉えようとしても無理があるということは自分にもよくわかりますが、現代人も戦争をするし、「腹切りが日本的美なら、生け贄はアステカ的美」であって、これは価値観の問題なのだという著者の言い方には、ややついて行けない感じもしました。
 書物としては、真摯な姿勢で書かれた研究・解説書なのですが...。

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