【753】 ◎ 増田 義郎 『古代アステカ王国―征服された黄金の国』 (1963/01 中公新書) ★★★★★

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冒険小説・戦記小説的な面白さとともに文化・宗教の違いを浮き彫りに。

古代アステカ王国 征服された黄金の国.jpg 『古代アステカ王国―征服された黄金の国 (中公新書 6)』 〔'63年〕 増田義郎.jpg 増田 義郎 氏

 コルテスのアステカ王国征服を描いたもので、'64年刊行という中公新書でも初期の本ですが、たいへん生き生きとした記述で、まだ見ぬ国と国王を夢想するコルテス一行とともに異境を旅していうような気分になり、冒険小説や戦記小説を読むようにぐいぐい引き込まれます。

Tenochtitlan.jpg 栄華を極めたアステカ王国は、スペインの"残虐な征服者"コルテスにより一夜で滅ぼされたかのように思われていますが、コルテスがアステカ王国に入る前も、湖上に浮かぶ水上首府テノチティトラン入城後も、アステカ王モンテスマとの間で様々な交渉や駆け引きがあり、両軍が戦闘体制に入ってからは、コルテスが劣勢になり、命からがら敗走したこともあったことを本書で知りました。

水上都市 Tenochtitlan(テノチティトラン)

 コルテスというのは、若い頃は目立った才能もない単なる女たらしで、上官の許可を得ずに"黄金の国"を目指して出航するなどした人物ですが、メキシコに上陸してからは、本国から自分に向けられた討伐隊を懐柔するなどかなりの戦略戦術家ぶりで、アステカ王に対しても、いきなり戦いを挑むのではなく、心理戦から入っています。
 ただし、黄金が目当てだたとしても、彼自身のアステカ王を敬愛する気持ちや、キリスト教の布教にかける意気込みはホンモノだったようです。

 一方の、アステカ国王モンテスマは、占星術で軍神が復讐に来ると言われている年月日ぴったりにコルテスがやって来たため、戦う前から戦意喪失しているし、アステカ族は、極めて勇敢であるのはともかく、国を守るよりも、太陽神に捧げる生け贄の獲得のために戦っていて、ちょっと戦いに勝つと、国王ともども人身御供の儀式の方に勤しむ―。

 本書は、軍記物的な面白さを最後まで保ちながらも、異文化同士が初めて接触するときに想像もつかないようなことが起こるという面白さを描出しており、更には、回教徒との戦いなどを通じての経験からキリスト教と異教を二元対立で捉えるスペイン人コルテスと、狭い文化圏の中で"異教"という概念を持ちえず、征服者さえをも自らの宗教の体系内で軍神として運命論的に捉えてしまったアステカ王との、決定的な宗教観の違いを浮き彫りにしてみせています。

 著者30代半ばの著作ですが、この辺りの課題抽出を、読み物としての面白さを損なわずにやってみせるところがこの人の凄いところ。
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増田 義郎 (東京大学名誉教授)
1928年、東京生まれ。東京大学文学部卒。専門は文化人類学。
1959年以来、中南米で調査研究を行い、エスノヒストリー、政治人類学、生態人類学などの分野で多くの著書と論文を発表する。また、民族史資料として航海記の重要性に注目し、生田滋氏と協力して「大航海時代叢書」(52巻)の刊行を推進。その他の著書に、「新世界のユートピア」(中公文庫)、「古代アメリカ美術」(学習研究社)、「コロンブス」(岩波新書)、「大航海時代」(講談社)、「図説インカ帝国」(共著・小学館)などがある。

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増田 義郎氏(ますだ・よしお、本名=昭三=しょうぞう、東京大名誉教授)2016年11月5日、心不全のため死去、88歳。

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