【744】 ○ 高 巌 『「誠実さ(インテグリティ)」を貫く経営 (2006/03 日本経済新聞社) ★★★★

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「企業にどうして社会的責任が求められるのか」という考察が興味深い。

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「誠実さ(インテグリティ)」を貫く経営』 (2006/03 日本経済新聞社)

 著者は大学教授であり、CSR、内部統制の専門家で、本書は'05年中に刊行する予定だったのが、放送局、原子力発電所、金融機関などで不祥事が続き、さらに列車脱線事故が起きるなどして委員会参加などに忙殺されたために刊行が遅れたとのことで、学者らしいかっちりした内容ながら、遅れた分だけ直近の企業不祥事が事例として多く盛り込まれていて、問題を身近に感じつつ読めました。

 また、ある種"理想論"的なタイトルでありながらも、著者が複数の大手企業の社内倫理委員会のメンバーを務め、その中で企業には誠実さが求められることを説き、それを前提に内部統制を実践してきているため、論旨が地に足のついたものとなっています。

 CSRというものの歴史的起源から始まって、社内の公益通報制度を不満の捌け口として濫用する従業員に対するその非合理性の論証などもあり、さらにCSR先行企業の取り組み事例まで、カバーしているテーマの階層レベルは広い。

 個人的に興味深かったのは、「企業にどうして社会的責任が求められるのか」という考察で、著者によれば、企業とは「法人」つまり法的に擬人化した存在であり、企業のもともとのオーナーたちは「自然人」に求められる法的・社会的責任を「法人」に転嫁したわけで、一方、最近では、企業は株主のものであるというということが改めて言われるようになっていますが、有限責任を前提とする株主が企業の所有者であるならば、自分たちは出資した以上の責任は負わないということになり、そこに「責任の空白」が生まれる―。

 したがって、「法人」たる企業がやはり責任を負うことになり、この帰結は同時に、「株主利益の最大化」が唯一の企業の社会的責任だというフリードマンの理論の"穴"にもなっていて、株主(所有者)が無限責任を負うならばともかく「有限」責任のままでいるならば、「法人」(現実には経営者や従業員)が社会的責任の担い手とならなければならず、従って、経営者や従業員は利益を上げてくれればそれでいいと株主が言うのは身勝手な論理であると...(企業が社会的責任を果たすことが「株主利益の最大化」に繋がるという論法も当然成り立つが、現実には、CSRへの取り組みが"短期的に"利益を生むことは殆ど無い)。

 企業を支える経営者や従業員がそれぞれにおいて誠実であるしかないということで、CSRへの取り組みは、長期的には必ず市場から評価を得ると著者は述べています。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年10月 2日 22:37.

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