【742】 ◎ 松井 道夫 『好き嫌いで人事―能力主義でも成果主義でもない超アナログ組織論』 (2005/07 日本実業出版社) ★★★★☆

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「好き嫌い」人事のバックにある明確なポリシーとキッチリした手順。

好き嫌いで人事.jpg 『好き嫌いで人事』 (2005/07 日本実業出版社)

 いち早くインターネット株取引に参入し、ネット証券の雄となった松井証券の松井道夫社長の本で、組織論、人材論、採用・教育論、評価論、分配論、リーダー論の6章に分かれていますが、売上高経常利益率60%というスゴイ業績を維持している秘密が簡潔によく分かる、経営啓蒙書と言えます。

 商人の気概を大事にし、ソツの無い人間よりは「ソツあり人間」を、デジタル人間よりはアナログ人間を重視するなど、一般的なネット業界のイメージとは異質のユニークさがあり、「社員研修は愚の骨頂」などと言った刺激的なフレーズも並びますが、読んでみるとナルホドという感じ。

 本書から示唆を受けた部分は多かったのですが、あえて人事・賃金制度面に絞って言うと、「退職金制度は奴隷制度だ」 として、'02年に会社退職金制度をやめ厚生年金基金も脱退して、退職金前払い制度に移行しています。
 「株屋だったら生涯の資産の運用・管理は自分でやれ」という考えで、本書には書かれていませんが、この会社は、退職金清算分が税法上の退職所得となるように当局と粘り強く交渉し、また、制度廃止後は、会社員の個人加入が可能な「(企業内個人型)確定拠出年金」を入れ、前払い制度との選択ができるようにしています。

 賃金制度は全社員年俸制で、金額査定の幅がかなり大きく、そうすると評価の公平性が通常は問題となるわけですが、、「評価は所詮好き嫌い」 であるとしていて、"客観的な評価ルール"など〈神学論争〉だと言っている―、では、社長が独断で社員の評価をしているか(この会社の規模なら出来なくはない)というとそうではなく、一般の被評価者は、1次評価者とも2次評価者とも面談をするシステムにするなど(これ、なかなか大変なことだと思う)、非常にキッチリしたやり方をしています。

 官僚主義の排除、消費者論理(顧客第一主義ではなく顧客中心主義)、強みを活かした経営、株主と経営者の関係など、マネジメント全般についての確固たるポリシーがあり、また、それを実践しているだけに説得力があります。
 内容的も小難しい話し方は一切しておらず、人にも薦められる本だと思います。

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