【741】 ◎ ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル (田中融二:訳) 『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』 (1970/01 ダイヤモンド社)《(渡辺伸也 :訳) 『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』(2003/12 ダイヤモンド社)》 ★★★★☆

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処世術としてではなく、組織論の1つの考え方、言い表し方として押さえておきたい。

ピーターの法則s.jpgピーターの法則.jpg The Peter Principle.jpg ピーターの法則 sin .jpg
ピーターの法則』(1970/01 ダイヤモンド社)『ピーターの法則』新訳版 〔'03年〕 The Peter Principle〔'84年版〕 『[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由(2018/03 ダイヤモンド社)再選評
ピーターの法則9.JPGLaurence J. Peter.jpg 教育学者ローレンス・J・ピーター(Laurence.J.Peter、1919‐1990)が唱えた有名な「ピーターの法則」の原著『The Peter Principle』は'69年に出版され(実際にはカナダ人作家のレイモンド・ハルが書いた)、'70年に邦訳されていますが、'02年には新訳が出されていることから、やはりインパクトは今でもあるのではないかと思われます。
Laurence J. Peter(1919‐1990)

vision03.jpg 「ピーターの法則」とは、「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのが無能レベルに到達する」というものです。さらに、これに続く「ピーターの必然」というものがあり(「ピーターの法則」の系1,系2とされることもある)、それは、 「やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる」、「仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている」というものですが(何れも渡辺伸也氏訳)、組織論的に見てかなり当たっているのではないかという気がしています。

 読む側が、上司である管理職の無能を嘆いている場合は、一定のカタルシスを得られる本かもしれませんが、最後の「必然」を飛ばしてしまうと、自分がいる組織は回らなくなるというパラドックスに陥ります。それでも組織が回っているのは、「必然」の後段(系2)が示唆するように、組織を構成する個々において"無能化"に至る時間差があるためです。

 冒頭にこうしたパラドックスの種明かしをしておきながら、本文全体は、人々が"無能化"する経緯を様々な事例を挙げてパラドキシカルに述べているために本書は"奇書"と見なされ(新訳の帯にも「"構造社会学"の奇書」とある)、しかも最後に、"昇進しない"ための〈創造的無能〉を"大真面目に"説いていているため、書店では、ビジネス書コーナーよりも、啓蒙書・人生論のコーナーに置かれていたりします。

 "スロー・キャリア"などが唱えられる昨今、意外と自らのキャリア・プランのヒントとして、或いは処世術として本書を読む人もいるかも知れませんが(新訳の帯に「無敵の処世術!」とある)、一方で、著者の読者を煙に巻くような言い方が合わない人も多いのではないでしょうか。本書の啓発的ポイントはどこかという観点から見れば、努力することによって無能に到達するまでのステップを増やせ、という自助努力論であって、所謂効率良く世の中を泳ぎ切ろうという"処世術"とは少し違うのではないかと思います。

 これまで個人的には、本書に横溢するパラドックスはユーモアとしてのものであると捉え、処世術の本としてではなく、ちょっとひねった感じの組織論の本として読んできましたが、最近は、結構奥が深いというか、「ピーターの法則」とは必ずしもパラドックスというようなものではなく、むしろ、現実のジレンマとしてあるものではないかと思うようになりました。

 人事コンサルティングの現場においても、「プレイヤーとして優秀な人が必ずしも優秀なマネジャーになるとは限らない」といったことはよく聞きますし、昇格・昇進において当初は「卒業方式」でいくとしても上位職層にいけばいくほど「入学方式」でいきべきだとも言われますが、これらなども「ピーターの法則」が示唆する教訓と呼応するのではないでしょうか。「役職定年制」や「役職任期制」などを提案する際などもこの「ピーターの法則」を引くことが多く、組織論の1つの考え方、言い表し方として、是非とも押えておきたい概念ではないかと思います。

 マネジャーになるために、一旦会社を辞めて大学に通ってMBAを取ってから企業に入り直すようなことが珍しくない米国などと、その部署で係長の仕事をしていた人がやがて課長になり、その何年か後に部長になるような日本と比べた場合、「ピーターの法則」の"ジレンマ"により陥りやすいのは日本の方かもしれません。

ピーターの法則 "The Peter Principle" lectured by KATUYA KOBAYASHI

 【1970年単行本[ダイヤモンド社『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』(田中融二:訳)]/2002年単行本[ダイヤモンド社『ピーターの法則―創造的無能のすすめ』(渡辺伸也:訳)]/2018年新装版[ダイヤモンド社『[新装版]ピーターの法則―「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』(渡辺伸也:訳)]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

《読書MEMO》
●「ピーターの法則」(田中融二氏訳)
「階層社会にあっては、その構成員は(各自の器量に応じて)それぞれ無能のレベルに達する傾向がある」
系1:「時がたつに従って、階層社会のすべてのポストは、その責任を全うしえない従業員(構成員)によって占められるようになる傾向がある」
系2:「仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員(構成員)によって遂行される」

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