【739】 ○ 朝日新聞特別報道チーム 『偽装請負―格差社会の労働現場』 (2007/05 朝日新書) ★★★★

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対象企業を絞り込んで(キヤノン・松下・クリスタル)まとめているため、問題の根深さがよくわかる。

偽装請負.jpg   『偽装請負―格差社会の労働現場』 ('07年/朝日新書) 偽装請負が大企業の工場で横行している実態を報じた朝日新聞の記事.jpg

 '06年7月31日に「偽装請負」追及のキャンペーン報道をスタートさせた朝日新聞の特別報道チームの8カ月の取材の集大成で、取材した企業の数はかなり多かったと思いますが、新書に纏めるにあたり対象企業を絞り込んでいるため、新聞連載の新書化にありがちな、総花的ではあるが1つ1つの事件についての突っ込みが浅くなるという欠点が回避されているように思えました。

1eacf628.jpg 全5章から成りますが、第1章で〈キヤノン〉、第2章で〈松下〉の偽装請負を、第3章で請負会社の実態として〈クリスタル〉を取り上げ、この3つの章が本書の中核となっています。

 〈キヤノン〉は、宇都宮光学機器事業所の請負社員の内部告発に端を発してあからさまになった恒常的な偽装請負が取材されていますが、「御手洗キヤノン」と呼ばれるほどの会社で、日本経団連会長・経済財政諮問会議メンバーの御手洗冨士夫会長の考えが、請負労働者や記者取材に対する会社の管理部門の対応に強く反映されているように感じました(悪く言えば、"開き直り"?)

b15cb69b.jpg 一方、〈松下〉の方は、松下プラズマディスプレイ㈱茨木工場で、偽装請負を形式上回避するために、請負会社に自社社員を大量出向させるという"奇策"で知られることになりましたが、このやり方を、請負会社は自分たちの発案だと言っているのに対し、松下PDP側は、大阪労働局の助言に従ったと主張している点が興味深いく(結局、このやり方が「クロ」であると判断したのも大阪労働局で、短い期間で行政の対応が変わった可能性もあるのではないだろうか)、いずれにせよ、尼崎への工場進出に際して助成金を受けるため、その審査機関だけ請負社員を派遣に切り替えるなど、〈松下〉のやり方は、"姑息"という感じがします(本書の書きぶりだと、兵庫県も一枚噛んでいる?)。

 また、請負会社〈クリスタル〉の業績発展の背後には(この会社は人の出し入れの速さが売りだったようですが)、グローバル化により安価な労働力が求められていることのほかに、工場で生産する商品のライフサイクルの短期化などが影響しているというのには、ちょっと考えさせられました。
 それにしても無茶苦茶な労働条件で労働者をこき使い、創業者は稼ぐだけ稼いで、〈グッドウィル〉に会社を売り渡してしまった(要するに売り抜けた)...。

 プロローグに、〈クリスタル〉系列の請負会社からニコン熊谷製作所に「派遣」され、半導体製造現場(所謂"クリーンルーム")に勤務し過労自殺した若者の話がありますが、母親が亡くなった息子のホームページを引き継いでいて、それを閲読すると、もうこんな事件はあってはならないとつくづく思うのですが、事件が起きたのが'99年だったことを考えると、まだその時点では"始まり"に過ぎなかったのか。

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This page contains a single entry by wada published on 2007年9月19日 21:04.

【738】 ○ 江副 浩正 『リクルートのDNA―起業家精神とは何か』 (2007/03 角川oneテーマ21) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【740】 △ 門倉 貴史 『派遣のリアル―300万人の悲鳴が聞こえる』 (2007/08 宝島社新書) ★★★ is the next entry in this blog.

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