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「浪花節・メロドラマ・被害者意識」を武器に論理(契約)を覆す日本人。
『日本人と交渉する法―欧米の論理はなぜ通用しないのか』 『日本人と交渉する法 - The Japanese Negotiator: Subtletyand Strategy Beyond Western Logic』
オーストラリア人の心理学者で、社会学、経営学も修め、米・豪・日の各大学で教鞭を執った経験があり、日本文化にも造詣の深い著者が、欧米人からみた日本人の「わからなさ」の背景にある独特の文化を鋭く分析し、なぜ欧米流の論理が日本人には通用しないのか、では一体どうすればビジネス交渉などが上手く捗るのかを解説しています。
確かに日本人は質問しても明確に答えを出さず、また契約に際しても感情的なことで左右される―、その後者の例として、日米の「野球論争」がとりあげられています。
これは、今は大リーグ解説などで知られる村上雅則氏の話で、かつて日米の選手交換協定で、南海入団2年目の彼が1年間の野球留学でサンフランシスコ・ジャイアンツ1Aに行ったとき、協定の中にSFジャイアンツは親球団に1万ドル払えば選手契約を買い取れるとの条項があって、ジャイアンツは村上をメジャー昇格させ、南海は(それまでまさか日本人投手がメジャー昇格するとは思ってなかったが)とりあえず1万ドルを受け取った―、ところが、村上が正月に日本に戻ると、彼は日本人であり長男なのだから日本に留まるべきだという意見があり、プレッシャーに押された南海は彼に南海でプレーするよう契約をとり付けたという二重契約事件。
どう見ても南海の契約違反であり、当然米国側は怒るわけですが、著者はここに日米の契約に対する考え方の違いがあるとしています。
つまり、契約が交わされた後も再交渉の余地があると考えるのが日本人であり、「浪花節」(論理より感情優先)、「メロドラマ」(自分はいつも悲劇の主人公のような立場でいる)、「被害者意識」(相手の"良心"に訴える)という3つの武器で論理(契約)をひっくり返してしまうということです(この武器は本物の感情と演技力があれば欧米人でも使えると著者は言っている)。
随分前に出された本ですが、日本人が独自の精神性をビジネスの場に持ち込むことについては、大方は今も変わっていないような気がします。
欧米人に向けて書かれた本ですが、日本人にとっても異文化交渉で役立つものであり、実際、本書はアメリカに先立って日本で刊行されています。
【1990年ペーパーバック版[講談社インターナショナル]】