【734】 ○ 中村 聡一 『企業買収の焦点―M&Aが日本を動かす』 (2005/11 講談社現代新書) ★★★☆

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進むM&Aと、求められるVBA(企業価値向上)ガバナンス。

企業買収の焦点.jpg 『企業買収の焦点―M&Aが日本を動かす (講談社現代新書)』 〔'05年〕

堀江・村上.jpg 著者は国際会計事務所KPMGの出身のM&Aコンサルタントで、第1章で、近年なぜ日本でM&Aが増え、「企業価値」という言葉が登場してきたのかを、第2章では、「会社は誰のものか」議論の背景にある日本特有の「企業意識」と「企業価値」との関係を述べ、第3章、第4章は、M&Aの種類や財務理論を解説したテキストになっています。
 本書が刊行されたのが、村上ファンドの村上世彰氏による阪神電鉄株の大量取得や、ライブドアとフジテレビのニッポン放送株を巡る経営権取得攻防があった'05年で、そうした事例が各章の解説に生々しく盛り込まれています。

 「会社は株主のものだ」とか「いや、社員のものだ」という議論がありますが(著者の基本的立場は「株主のもの」ということだろう)、著者の言う「企業価値」を高めるということは、財務的に健全で長期的に発展可能な組織を築くということであり、それには、そうした立場の違いからくる議論を超え、経営者や社員が頑張って生産性や効率性を追求する「内科療法」だけでなく、M&Aなどの「外科療法」が必要であり、また、「企業価値」をバロメータに健全性のチェックをする「VBA(企業価値向上)ガバナンス」の機能が必要だとして、第5章でそのモデル図を示しています。

 著者によれば、このガバナンスの機能を担うのが、「持ち株会社」であったり「ファンド」であったりするようですが、それがすべての企業にあてはまるか、また、うまくガバナンス機能が働くのかという"?"は残りました(著者の立場からすれば、大丈夫ということなのだろうが)。
 '05年6月のニレコのポイズン・ピル(新株予約権発行)に対する差し止め命令が紹介されていますが、この判断をしたのは東京地裁だったわけで、今後、こうした係争が増えるのでは...。

 それにしても、本書に列挙されている'05年のM&Aをめぐる動きを見ると、ライブドア、村上ファンドにとどまらず、バンダイ(ピープル株取得)、楽天(TBS株取得)、ブルドッグソース(イカリソースの営業権取得)など、慌しいと言うか夥しいものがあります。
 「株式持ち合い」の解消(相対的に外部株主の発言権が強まる)やカリスマ経営者の退場(現場主義の限界)が、こうした流れと無関係ではないことを指摘している点は、ナルホドと思いました。

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