【724】 ◎ 本田 由紀/内藤 朝雄/後藤 和智 『「ニート」って言うな! (2006/01 光文社新書) ★★★★☆

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巷間に溢れる「ニート」論のいい加減さと危険性を指摘。一読に値する。

二ートって言うな2998.JPG「ニート」って言うな!.jpg      本田由紀.jpg 本田 由紀 氏 (略歴下記)
「ニート」って言うな! (光文社新書)

 「ニート祭り」と言ってもいいほど盛況を極めた「ニート」論ブームを、教育社会学者の本田由紀氏をはじめとする3人の著者が "バッサリ"斬った本で、タイトルのから受ける印象よりはずっと真面目に、社会現象化した巷の「ニート」論を分析・批判しています。

ニート.gif とりわけ本田氏が執筆している第1章が明快で、「ニート」という概念を英国から輸入した玄田有史氏らが、その著書『ニート』('04年/幻冬舎)のサブタイトルにもあるように、フリーターでもなく失業者でもない人たちを「ニート」という言葉で安易に一括りに規定し、近年増加した(求職中ではないが働く意欲はある)「非求職型(就職希望型)」無業者を、ほとんど増えていない(働く予定や必要の無い)「非希望型」無業者と同じに扱ってしまったと。
 それにより、「非求職型」無業者というのは本来、同じく労働経済的要因で増加したフリーターや失業者(求職者)に近いはずなのに、それらと分断されて「働く必要のない人・働く意欲のない人」と同類に扱われ、さらには「ひきこもり」や「犯罪親和層」のイメージが拡大適用されてしまったとしています。
 このことは、結果として、労働経済問題である若年雇用の問題の咎を、失業者自身の「心の問題」や「家族」の問題、「教育」の問題にすりかえることになってしまったと。

 第2章では、社会学者の内藤氏が、「最近の若者は働く意欲を欠いている」「コミュニケーション能力に問題があり他者との関わりを苦手とする」「凶悪犯罪に走りやすい」といった根拠の希薄な「青少年ネガティブ・キャンペーン」と相俟って「ニート」が大衆の憎悪と不安の標的とされていることを指摘し、その背後にある大衆憎悪を醸成する社会心理のメカニズムと、「教育」的指導をしたがる危険な欲望について解説し、さらに第3章では、「俗流若者論批判」を展開している後藤和智氏が、「ニート」を巡るこれまでの言説を検証しています。

ニート.jpg 玄田氏の『ニート』を読んだときは、共著者・曲沼美恵氏の若者への真摯なインタビューなど共感する部分もありましたが、「ニート」の定義が粗削りのまま議論を展開していて(実は曲沼氏のインタビューを受けている人も「ニート」ではない)、最後は人生論みたいになってしまっているのに疑問を感じましたが、後藤氏のレポートを読むと、この「ニート」ブームに乗っかって牽強付会の言説を展開した学者・ジャーナリストがいかに多くいたかがよくわかり、危惧を覚えます。

 各章の繋がりやバランスがイマイチの部分もありますが、こうした言説が、政府の労働経済施策の無策ぶりに猶予を与え、国策教育など政治的に利用される怖れもあることを指摘しているという点では、多くの人にとって一読に値するものだと思いました。
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本田 由紀 (ほんだ・ゆき)
1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。教育学博士。94年から日本労働研究機構(現労働政策研究・研修機構)研究員として数々の調査研究プロジェクトに従事。2001年東京大学社会科学研究所助教授を経て、2003年から東京大学大学院情報学環助教授。主な編共著に『女性の就業と親子関係―母親たちの階層戦略』(勁草書房)『学力の社会学―調査が示す学力の変化と学習の課題』(岩波書店)など。著書に『若者と仕事―「学校経由」の就職を超えて』(東京大学出版会)など。

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