【722】 ○ 郷原 信郎 『「法令遵守」が日本を滅ぼす (2007/01 新潮新書) ★★★☆

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コンプライアンス=「法令遵守」と考えるのではなく、「社会的要請への適応」と考えるべしと。

「法令遵守」が日本を滅ぼす.jpg「法令遵守」が日本を滅ぼす』新潮新書〔'07年〕gohara.bmp 郷原 信郎 氏 (経歴下記)

 著者は東京地検特捜部の元検事で、以前からある建設談合事件から直近の耐震強度偽装事件、不正車検事件、パロマ事件まで多くの事件を取り上げ、そうした事件やその後の企業等の対応の背後にある「コンプライアンスとは単に法を守ること」という考え方の危うさを本書で示しています。
 
 建設談合についての過去における一定の機能的役割を認めているのが興味深く、単純な「談合害悪論」がそうした機能をも崩壊させようとしているとし、ライブドア事件や村上ファンド事件については、ライブドアの経営手法を現行法に照らした場合の違法性の低さや村上世彰氏の行為意をインサイダー取引と看做すことの強引さを指摘しているのが、元検事という経歴からして少し意外な感じもしましたが、「違法」という1点の事実により「劇場型報道」を行うマスコミを批判し、事件捜査のあり方が「劇場型」になってしまうことを危惧しています。

 また、独占禁止法と知的財産法など、ぶつかりあう関係にある法律も多くなり、かつて日本の司法―裁判官、検察官、弁護士などは、農村社会における巫女のような役割を果たしていたのが(喩えが面白い)、世の中が複雑になり、密着しあう様々の法律の隙間の部分での事件が多くなると、個別の法律を1つの点で捉えるのではなく、複数の法律を面で捉える必要が生じているのに、そうした捉え方が出来る人材が不足しているとのこと。

 ライブドア事件や村上ファンド事件などの検察の捜査は、司法の経済活動への介入ともとれ、1つ間違えると「法令遵守」が市場をダメにすることにもなりかねず、そうした意味での"経済特捜"の役割と責任の大きさを説いています。

 結論的には、「コンプライアンス=法令遵守」と考えるのではなく、「コンプライアンス=社会的要請への適応」と考えるべきであるということで、最後にそうした要請に応えるべく「フルッセト・コンプライアンス」という概念を具体的要素を挙げて提唱していますが、そこでは組織を壊死させるのではなく機能させることを主眼としているように思えます。
コンプライアンスの考え方.jpg
 新書版でさらっと読める割には内容の奥は深く、ただしややわかりにくい部分もあり、早稲田大学の浜辺陽一郎教授の著書『コンプライアンスの考え方―信頼される企業経営のために』('05年/中公新書)のように、冒頭で本来のコンプライアンスを「法令遵守」と訳すのは誤りであると指摘してしまった方がわかりやすかったかも。
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郷原 信郎 (ごうはら のぶお)
1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒業後、東京地検検事に任官。1990年4月に日米構造協議を受けて独禁法運用強化が図られていた公正取引委員会事務局に出向し、 1993年3月までの審査部付検事などとして勤務。その後、東京地検検事、広島地検特別刑事部長を経て、1999年4月から法務省法務総合研究所研究官。 2005年4月、 桐蔭横浜大学法科大学院に専任教官として派遣されるとともに、同大学コンプライアンス研究センター長に就任。主著に 『独占禁止法の日本的構造-制裁・措置の座標軸的分析 』

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