【709】 ◎ 加茂 善仁 『労災・安全衛生・メンタルヘルスQ&A― 労働法実務相談シリーズ9』 (2007/03 労務行政) ★★★★☆

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実務に沿ってキッチリと書かれている。現実対応の難しさを改めて認識。

労災・安全衛生・メンタルヘルスQ&A.jpg  『労災・安全衛生・メンタルヘルス Q&A』 (2007/03 労務行政)

 本書の章立ては下記の通りで、章ごとに論点を整理したうえでQ&Aを用意していますが(全81問)、判例や通達を多角的にまじえ、かなり踏み込んだ解説がされています。

 「労災」はやはり適否問題が複雑で、教科書的な本だけ読んでもあまり参考にならず、と言って1つ1つ判例をあたるのもたいへんですが、これだけ整理してまとめられていれば、かなり実用に供するのではないかと思われます。

 「労災」から「安全衛生」、さらに「メンタルヘルス」へという流れでの編集も実用的ですが、「安全配慮義務」や「安全衛生」についても、ある産業分野でしか起きないような事案は極少に留め、裁量労働制、派遣や請負、長時間労働と過労死といった今日多くの企業で問題になる可能性がある事柄について詳説しています。

 「健康診断」については、それ以前の章でも述べられていることですが、時間外労働が月100時間超の過重労働者(かつ疲労の蓄積が認められること)に対する産業医等の面接指導が'06(平成18)年度から義務化されているのが1つポイントで、ただし、本書にもあるように、通達を読む限り、労働者が申し出ない限りは面接指導の義務がないということになります。
 これって労働者保護の立場からするとどうなのだろうという気もしますが、「コンプライアンス」とは法令に抵触しないことを目的とするものでなく、法令を通じて期待されている企業の社会的役割を果たすことにあるのだと考えるしか、こうした「法の隙間」問題に対処する道はないのでは。

 「メンタルヘルス」については、さらに微妙な問題が多くなり、例えば「うつ状態の社員の主治医に対し、本人の病状について情報開示を求めることはできるか」という問いに対し、訊くことは「問題ない」が、主治医に「回答する義務はなく、また、個人情報保護を理由に回答が得られないことが多い」となっています。

 1つ1つのQ&Aを読んで改めて諸問題への対応の難しさを感じますが、通達や判例の典拠もきちんと記載されていて、さすが「労務行政」刊行の本という感じ(執筆者は弁護士)で、値が少し張る(3,400円)のは仕方がないか。

【2012年第2版】
 
《読書MEMO》
●章立て
第1章 業務災害・通勤災害(労災保険法の仕組み、業務上の災害ほか)
第2章 安全配慮義務(安全配慮義務の根拠とその義務の主体、安全配慮義務の内容とその主張・立証責任ほか)
第3章 安全衛生管理(安全衛生教育、適用単位と適用業種・規模ほか)
第4章 健康診断、職場の健康管理(健康診断、職場の健康管理・健康対策ほか)
第5章 メンタルヘルス(採用の自由とプライバシーの保護、調査の自由ほか)

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This page contains a single entry by wada published on 2007年7月15日 23:30.

【708】 ◎ 藤原 久嗣 『ベーシック賃金管理―賃金・手当・賞与・退職金』 (2000/02 生産性出版) ★★★★★ was the previous entry in this blog.

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