【701】 △ 日下 公人 『人事破壊―新しい日本よ、こんにちは』 (1994/08 PHP研究所) ★★★

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アウトラインとしてはまあまあ当たっていたが、細部においてはかなり粗っぽい楽観主義。

日下 公人 『人事破壊』.jpg人事破壊―新しい日本よ、こんにちは.jpg  人事破壊 bunnko.jpg   kusaka.jpg 日下 公人 氏
人事破壊―新しい日本よ、こんにちは』['94年〕 『人事破壊―新しい日本よ、こんにちは (PHP文庫)』['96年]

人事破壊 新しい日本よこんちにわ 日下公人.jpg '94年に刊行された本書は、企業における人事のあり方を将来予測したもので、これから滅びいくものとして〈人事権、正社員、会社人間〉、これから生まれてくるものとして〈デフレ時代、真の人本主義〉を挙げていますが、アウトラインとしてはまあまあ当たっていたのではないかと思います。

 しかし、少し意地悪な見方をすれば、バブル崩壊後すでに数年を経た当時において、正社員だけでは企業経営が成り立たなくなることや、デフレ時代が到来することを予測するのはさほど困難なことではなかったように思われます。
 さらに細部にこだわれば、それでも大方の企業において人事部は人事権を手放すことはしていないし、正社員中心主義も変わっていないと思う。だからこそ、非正社員はこぞって正社員になろうともがいているのではないかと。

 本書の主張の核である〈真の人本主義〉についても、デフレ時代がくると仲間主義が続けられず、資本家は支配力を強め、発展する会社は先端分野へ進出するが、そこ(先端分野)は人本主義の世界であり、資本家による支配よりも才能のある人間をまとめられる人が新しいリーダーとなり、そういう人の周りに優秀な人材がたくさん集まっていい会社ができあがる、という流れですが、必ずしもすべての業種・業態においてこうしたことが主流現象、成功事例として起きているとは思えません。

 「...45歳くらいの体力・気力・実力のある人間にトップの座を譲らなければならない。しかしそういう面は採用せず、相変らず70歳前後の人がトップに坐り、中高年社員だけに競争原理を強要して「実力がない者は出ていけ」と言ったのは、余りに都合がよすぎる」(15p)と企業にはびこる"老害"を喝破しているのは読者にとって気持ちよいけれど、でも、実際なかなか変わらないんだよね、会社って、という思いは残り、どこに具体的な問題があるかまで突っ込んでいないのは、一般書だから仕方ないのか。
 この人の本は現況およびトレンドを大掴みする上ではいいのですが、細部においてはかなり粗っぽい楽観主義が見られ、最近の著者においてはよりその傾向を増している気がします。

 長銀の取締役を経てソフト化経済センターの理事長となった氏でしたが、長銀は破綻し、ソフト化経済センターも'05年末に解散しています(それでも、大学教授として迎えられる―)。
 "予想屋"というのは極度に悲観的であるか、あるいは極度に楽観的であるか、いずれかの方が受けるのかも。

 【1996年文庫化[PHP文庫]】

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